研究課題/領域番号 |
16H03010
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松岡 俊二 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (00211566)
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研究分担者 |
師岡 愼一 早稲田大学, 理工学術院, 特任教授 (10528946)
勝田 正文 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20120107)
松本 礼史 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50294608)
黒川 哲志 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90268582)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バックエンド問題 / 社会的受容性 / 欠如モデル / 文脈モデル / 原子力政策 / 地層処分 |
研究実績の概要 |
本研究「高レベル放射性廃棄物(HLW)処理・処分施設の社会的受容性に関する研究」は、原子力発電所からでる使用済核燃料に由来するHLW処理・処分施設立地の社会的合意形成のあり方を、科学技術コミュニケーション研究における欠如モデルと文脈モデルに基づき、日本と欧州のケーススタディから、欠如モデルの限界と文脈モデルの適用可能性を明らかにすることを目的としている。その際、各モデルを分析する方法論として社会的受容性論に着目し、HLW処理・処分施設の社会的受容性を技術・制度・市場・地域の4要素から定義し、日本と欧州における立地容認事例と拒否事例における各アクターの社会的受容性分析を通じて、欠如モデルの限界を実証的に検討し、文脈モデルの具体的な適用手法について考察することとしている。 以上の研究目的に基づき、本科研PJの第1年次(2016年度)の研究活動としては、外部専門家などを招聘した合計7回の研究会を開催し、国内調査として青森県六ケ所村の核燃料サイクル関連施設(日本原燃の再処理工場、ウラン濃縮工場、低レベル廃棄物埋設センター)、青森県大間町の大間原発(フルMOX)および大間原発建設差止め訴訟をしている函館市、むつ市の使用済み燃料備蓄センター、北海道幌延町の幌延深地層研究センター、茨城県東海村の三菱原子燃料東海工場、岐阜県瑞浪市および土岐市の東濃地科学センターの立地経緯に関する調査研究を行い、社会的受容性論の観点からそれぞれケースの立地受入と立地反対の社会的メカニズムについて検討した。 また、社会的受容性分析フレームの研究開発とバックエンド問題の比較制度分析に関するタスクフォース(TF)を設置し、前者の社会的受容性分析TFは合計6回開催し、後者のバックエンドに関する比較制度分析TFは合計4回開催した。さらに、2017年3月7日には第6回原子力政策・福島復興シンポジウムを開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災と福島原発事故から6年が経過し、原子力政策の全体的な見直しの必要性が指摘されるなかで、日本の高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分をどうするのかというバックエンド問題は、国が前面に出る形で地層処分の適正地域に関する科学的有望地あるいは科学的特性マップの基準検討が進められ、その社会的提示の仕方をめぐって議論が続いている。 かかる状況を踏まえ、本研究「高レベル放射性廃棄物(HLW)処理・処分施設の社会的受容性に関する研究」は、バックエンド問題の特性を考慮して、社会的受容性論を技術・制度・市場・地域という4つの要素から定義し、それぞれの要素の関係性を踏まえた理論化を行ってきた。そのため、2016年度では社会的受容性分析の方法の研究開発を目的としたタスクフォースを6回開催し、国内の6箇所の原子力施設の受入れ事例および拒否事例の調査研究を行ってきた。 以上の社会的受容性TFの検討や国内調査から、単純に欠如モデルの限界を決めることは難しく、依然として立地推進側も反対側も欠如モデルに立脚している日本的状況を明らかにしてきた。また、文脈モデルにおける双方向コミュニケーションの根拠を形成するLay-Expertise(素人の専門性)モデルにおける地域知(生活知)に当たるものがバックエンド問題において何なののかが大きな課題である点も明らかになってきた。こうしたバックエンド問題の社会的受容性をめぐる学術的課題が明らかになったことは第1年次の大きな研究成果である。 今後の分析フレームの検討は、欠如モデルと文脈モデルの双方の特性と限界を踏まえた、あるいは2つのモデルを包摂し、止揚しうる社会的受容性モデルの研究開発が課題であり、2017年3月末にまとめた研究成果である松岡(2017)「原子力政策におけるバックエンド問題と科学的有望地」では、こうした新たな方向性を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
第1年次における、国内のHLWに関連した合計6箇所の立地受入れ事例および拒否事例の調査研究、社会的受容性フレームの研究開発を目的とした合計6回のタスクフォースの開催、バックエンド政策をめぐる合計7回の研究会の開催、さらには2017年3月7日の第6回原子力政策・福島復興シンポポジウムの開催などにより 今後の研究課題として、欠如モデルと文脈モデルの双方の特性と限界を踏まえた、あるいは2つのモデルを包摂し、止揚しうる社会的受容性モデルの研究開発と国内外の事例におけるモデルの具体的な検証であることがはっきりしてきた。本研究は、風力発電所の立地をめぐる丸山らの社会的受容性研究などの新たな先行研究の流れを受け、社会的受容性を、様々なアクターと様々なレベル・層による協働ガバナンス(collaborative governance)に基づくミクロ・マクロ・ループに基づく社会的学習(social learning)プロセスを重視した協働的・相互能動的な受容性として定義することを試みる。言わば、社会的相互受容性論(social interactive acceptance)を理論的かつ実証的に展開することを意図している。 今後はこうした研究方針に基づき、社会的受容性分析フレームの研究開発を目としたタスクフォースを開催し、また様々な専門的観点からのバックエンド問題の検討を目的とした研究会を開催し、国内外のバックエンド問題に関する事例や制度の比較研究を目的とした現地調査研究を実施することによって、将来世代の関与を保障する可逆性や技術的回収可能性なども踏まえたガバナンスについても研究し、バックエンド問題を社会的に解決するための社会的受容性の要素や条件の検討を進める。
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