研究課題/領域番号 |
16H03033
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
飯田 薫子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50375458)
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研究分担者 |
近藤 和雄 東洋大学, 食環境科学部, 教授 (30153711)
鈴木 恵美子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (80154524)
岸本 良美 お茶の水女子大学, お茶大アカデミック・プロダクション, 寄附研究部門准教授 (70600477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 骨格筋 / サルコペニア / エネルギー代謝 / 食品因子 / イソフラボン |
研究実績の概要 |
本年度は以下の成果を得た。 1)培養細胞での検討:我々の研究室では大豆イソフラボンが筋培養細胞の代謝に与える影響を検討してきた。本年度はミトコンドリア代謝調節に重要な転写因子の1つERRαに着目し、その標的遺伝子の発現制御効果について検討を行った。その結果イソフラボンの1種Daidzeinがpyruvate dehydrogenase kinase isozyme 4 (PDK4)やmedium-chain acyl-CoA dehydrogenase (MCAD)などの遺伝子発現を増加させること、ERRα阻害剤によりその効果は減弱することなどを明らかとした。さらにPDK4プロモータを用いたレポーターアッセイにより、DaidzeinがPDK4の転写活性を直接増強させることを確認した。その他、骨格筋のエネルギー代謝産物である乳酸が筋の主要な構成蛋白質であるミオシンの発現を促進する可能性や、食品ポリフェノールの一種である没食子酸が飽和脂肪酸誘導性炎症を抑制する可能性などを見いだしており、今後はこれらのメカニズムについても検討を行う予定である。 2)動物での検討:サルコペニアの主要な原因として低栄養や運動不足などが知られている。そこで本年度は、これらの状態を模したモデルマウスの作成を試み、筋の代謝変化や組織学的な検討を行った。低栄養モデルとして、エネルギー産生の律速酵素であるクエン酸合成酵素のノックアウトマウスに低糖質食を投与したモデルを使用し、筋のエネルギー代謝関連遺伝子変化を検討した。この結果、心筋では糖、脂質、ケトン体などの取り込みや利用に関わる遺伝子の発現が上昇するのに対し、骨格筋においてはこれら遺伝子の発現に変動はほとんど認められないことを明らかとした。現在は、専用器具によりマウスの下肢を懸垂して運動を制限するモデルの作成も行っており、今後はその解析に着手する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に述べたように本年度は食品や栄養因子が骨格筋の代謝に与える影響について、幅広い研究を行なった。特にこれまで検討してきた大豆イソフラボンについては、PDK4 やMCADといった筋の主要なエネルギー代謝関連遺伝子の発現調節機能を有すること、またそのメカニズムの一端にERRαが関連する可能性などを明らかにすることができた。また、大豆イソフラボンだけではなく、エネルギー代謝産物である乳酸や、食品ポリフェノールの一種である没食子酸といった新たな因子について、サルコペニアの病態改善に応用しうる新たな知見を得ることができた。また動物を用いた検討においては、低栄養と運動制限という2つの側面から病態モデルを作成し、骨格筋のエネルギー代謝について詳細な解析に着手することができた。特に低栄養モデルにおいては、心筋と骨格筋のエネルギー代謝調節の適応変化の相違について興味深い知見を得た。 以上の理由から、研究は十分に行なわれており、かつ計画の達成度も予定通り順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究概要実績1)、2)について、項目毎に以下のように研究を推進していく。 1)①イソフラボンの1種DaidzeinのERRαを介した脂質代謝関連遺伝子の発現制御効果について、今後は他の脂質代謝関連転写因子(ERRの他のアイソフォームやFOXOなど)の関与を検討していく。具体的には上記転写因子の発現解析とともに、結合領域を有するレポーター遺伝子を用いて責任領域の欠失変異などを作成し、これらの転写因子の関与についても検討を行う。②乳酸のミオシン遺伝子発現増強効果についてミオシン遺伝子のアイソフォーム別に解析を行う。またWestern Blot法などを用いたミオシン蛋白の発現変化の検討や、ミオシン遺伝子のプロモータ領域を有するレポーター遺伝子を用い、欠失変異体を作成し、乳酸のミオシン遺伝子発現制御効果の責任領域の解明などを行っていく。③没食子酸の飽和脂肪酸誘導性炎症の抑制効果について以下の検討を行う。ELISAによるサイトカインの培養上清の濃度の変化の検討や、Western Blot法による炎症性シグナルの解析など。これらの検討は、まずはマクロファージ系の細胞で行う予定であるが、今後は骨格筋細胞でも同様の検討を行っていく。 2)動物を用いた検討において、低栄養モデルで見られた心臓と骨格筋の代謝関連遺伝子の変化の差異について、さらなる解析を行う。まずは、骨格筋において糖や脂質代謝遺伝子の発現が変化をしない理由を明らかとするために、蛋白代謝に関して詳細に検討する。具体的には遺伝子発現とともに、アミノ酸分析や蛋白合成に関わるシグナル経路などにつき、評価を行っていく。合わせて組織学的な評価を行い、骨格筋の形態や質の変化についても解析を行う。また解析が未着手である下肢懸垂による運動制限モデルについても、今後、筋組織での遺伝子発現解析などを行い、その変化について解析をすすめていく。
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