研究課題/領域番号 |
16H03039
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
井上 裕康 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (40183743)
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研究分担者 |
中田 理恵子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (90198119)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レスベラトロール / 核内受容体 / 生活習慣病予防 / 動脈硬化 / 心筋 |
研究実績の概要 |
私達は、食品成分の機能性を核内受容体PPARを指標として評価する系を、これまでに確立している。本研究ではこの評価系を指標として、食品機能成分がどのような機構で、どのような分子が制御を受けて、生活習慣病発症に関連する代謝等を改善するのかを、植物性ポリフェノールのレスベラトロールに注目し検討した。 レスベラトロールは、心血管系疾患の発症リスク軽減に関わる分子として、注目されているが、分子作用機構は十分に明らかではない。私達はこれまでに、レスベラトロールがPPARαを直接活性化することを見出している。そこで、レスベラトロールの血管および心臓への効果とPPARα活性化の関与を検討した。 ヒト動脈硬化症モデルのApoE欠損マウスにレスベラトロールを摂取させると、動脈硬化指数non-HDL/HDL比の減少、大動脈弓部での脂肪沈着の減少、血管壁肥厚およびマクロファージの浸潤の抑制が観察された。これらの効果は、ApoE/PPARα二重欠損マウスでは観察されなかった。以上の結果から、レスベラトロールはPPARα依存的に抗動脈硬化作用を有する可能性が示唆された。 さらに、マウス新生仔由来初代培養心筋細胞に、拍動を維持した状態でレスベラトロールの刺激を行うと、脂質代謝に関わるPPAR応答遺伝子、オートファジーやエネルギー代謝に関わる遺伝子の発現が誘導することを明らかにした。一方、PPARα欠損マウスの新生仔由来心筋細胞では、多くの遺伝子でこのような誘導が見られなくなった。以上の結果から、レスベラトロールは心筋に直接作用し、PPARα依存的に心臓の機能維持に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レスベラトロールは、心血管系疾患の発症リスク軽減に関与する分子として注目されているが、その作用機構は十分に明らかにされていない。本研究では、ApoE欠損マウスだけでなくApoE/PPARα二重欠損マウスを新たに作製した検討から、レスベラトロールはPPARαを介して抗動脈硬化作用をもつことを明らかにした。 さらに、マウス新生仔由来初代培養心筋細胞を用い、生体の状態に近い拍動した状態で、心臓への効果を検討できる系を確立した。この方法により野生型およびPPARα欠損型マウス新生仔から調整した心筋細胞に対する効果から、レスベラトロールは心臓の機能維持に作用し、PPARα活性化が関与することを明らかにした。 また、マクロファージの炎症および抗炎症メディエーター産生に対するレスベラトロールの作用について明らかにするための検討を開始した。現在までに、マクロファージ株化細胞やマウス腹腔マクロファージを用いた評価系を確立している。
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今後の研究の推進方策 |
PPAR活性化を指標とした評価系を用い、レスベラトロールの生活習慣病予防効果について、今年度は以下の点を中心に解析を進める。 1)マクロファージは、炎症の惹起・促進と収束の両面で作用し、生活習慣病発症との関連が注目される慢性炎症の様々なプロセスに関与すると考えられている。さらに、炎症収束期のマクロファージ集積にPPAR活性化が関与するという報告もある。そこで本研究計画では、マクロファージ株化細胞やマウス腹腔あるいは骨髄由来マクロファージを用いて、炎症および抗炎症メディエーター産生に対するレスベラトロールの効果とPPAR活性化の関与について解析を進める。 2)PPARβ/δは大脳皮質や小脳を中心とした中枢神経に発現し、神経保護作用や認知機能との関連が報告されているが、脳におけるPPARβ/δの機能については明らかではない。そこで本研究計画では、PPARβ/δ欠損マウスを用いた網羅的な行動解析から、PPARβ/δが関与する脳機能のスクリーニングを行うとともに、どのような分子機構が作用するのかを明らかにする。さらに、レスベラトロール摂取の脳機能への影響についても検討する。 研究計画の最終には、3年間の研究から得られた結果を総合し、各組織で見出されたレスベラトロールの効果を、PPAR活性化を基礎とした組織間相互作用の視点から明らかにしていく。
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