これまでに、C57BL/6マウスを利用し、加齢依存的に進行する難聴を抑制あるいは促進する食関連因子を複数明らかにしてきた。本年度は、まず、末梢血流の循環障害が加齢性難聴を促進させる可能性について検討するため、血流改善剤として広く利用されている酢酸トコフェロールの効果を試験した。しかしながら、若齢マウスへの3ヶ月の投与による難聴予防効果は認められなかったことから、少なくとも、C57BL/6マウスの若齢時における高音域の難聴進行には、末梢血流の循環障害が関与していないことが示唆された。 続いて、プロジェクトの進行を加速させるため、より短期間の評価系の導入に着手した。C57BL/6マウスは、加齢に伴う難聴の進行速度が早い系統ではあるが、それでも定量的に難聴の進行度を測定するためには3ヶ月単位の期間が必要である。そこで、音響障害による一時的な難聴に着目し、1~2週間で聴覚保護作用を有する食品因子が探索可能な試験系を構築した。具体的には、C57BL/6マウスに大音響のホワイトノイズを短時間聞かせ、その直前、直後、および数日後において聴性脳幹反応試験による聴力測定を実施する試験系である。これにより、音響障害による一過的な聴力低下と、その後の回復について定量的に評価することができた。これを音響暴露前後に試験食を摂取させた群とそうでない群で比較することにより、食品因子による聴覚保護作用を評価可能とした。これまでに、いくつかの抗酸化成分の摂取により、音響障害が緩和されるとの報告があり、本試験系においても、シソ科植物に含まれるポリフェノールであるロスマリン酸による聴覚保護作用が再現された。
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