昨年度、マウスに一過性の音響障害を誘導し、その予防食品を評価する短期試験系を構築した。本年度は、この評価系を改良し、音響障害を数週間のうちに複数回繰り返すことで、進行性の難聴が促進される現象を見出した。これは、大音響にさらされる機会が多い職業の人に見られる騒音性難聴や、ヘッドホン/イヤホンで大音量の音楽を習慣的に聴く人に見られるヘッドホン/イヤホン難聴に類似している。今後、本試験系を利用することで、これらの難聴の予防食品の効果的な探索や、メカニズムの解明が進むことが期待される。 これまでに、高脂肪食が老化促進モデルマウス系統であるSAMP8の加齢性難聴や他の組織における老化現象を遅延させることを明らかにしてきた。ここでは、ラード主体の高脂肪食あるいは通常食を1年以上摂取させたSMAP8マウスの肝臓サンプルを利用し、遺伝子発現の比較解析を行った。その結果、高脂肪食を摂取させた試験群では、通常食群と比較してミトコンドリア機能や抗酸化機能に関連する遺伝子の発現量が高いことが明らかとなった。このことから、高脂肪食は活性酸素によるダメージを軽減する作用があることが示唆された。また、SAMP8マウスは、高脂肪食の長期摂取にも関わらず、脂質代謝関連遺伝子の発現や、血液生化学検査の値に異常が認められなかったことから、高脂肪食による代謝異常に対して耐性があることが判明した。今後、メタボ予防研究に有用なモデルとなることが期待される。C57BL/6などの一般的なマウス系統では、高脂肪食の長期摂取は、肥満による脂肪組織の炎症等が引き金となって全身性に活性酸素ダメージが高まり、メタボリックシンドローム様の寿命短縮が観察されるが、SAMP8マウスではこれが起こらず、通常食よりもむしろ活性酸素ダメージが軽減され、加齢性難聴などの老化遅延につながるものと考えられた。
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