研究課題/領域番号 |
16H03045
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
成川 真隆 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任助教 (50432349)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 味 / 食経験 / 嗜好性 |
研究実績の概要 |
平成29年度は嗜好性の変化が摂食行動に与える影響を主に検討した。味嗜好性の変化は摂食行動を変化させる可能性が考えられる。摂食行動の偏りは、短期的には影響は少なくとも、長期的な視点では健康に甚大な影響を与えうる。そこで、食経験が摂食行動へ与える影響を観察するために、甘味刺激を経験したマウスを用いて、食餌選択性の変化を測定した。 成長期に甘味刺激を経験させたマウスを用いて、市販の固形食及び高ショ糖食に対する二餌選択試験を行った。各飼料を8もしくは14週間提示し、週毎の摂取カロリーから食餌選択率を求めた。甘味経験マウスではコントロールマウスに比べ、高ショ糖食に対する嗜好性が低下する傾向が認められた。一方、総摂取カロリーは変わらないのにもかかわらず、甘味経験マウスで体重が増加する傾向が認められた。続いて、この変化が高ショ糖食への選択的な作用かどうかを調べるために、甘味を経験させたマウスを用いて、市販固形食及び高脂肪食の二餌に対する選択試験を行った。この場合、高脂肪食に対する選択率は両群でほとんど変わらず、また両群の体重にも差は認められなかった。したがって、前者で観察された変化は、高ショ糖食摂取に起因すると考えられた。さらに、甘味強度の異なる餌を使用して、同様の検討を行った。AIN93G餌をベースとし、糖質源をすべてコーンスターチに置換した無味餌と糖質源をすべてショ糖に置換した甘味餌に対する選択率を評価した。その結果、甘味餌に対する嗜好性は両群で明確な差は認められなかったものの、甘味経験マウスで体重が増加する傾向が認められた。このとき、両群で運動量には変化が認められない一方で、甘味経験マウスのエネルギー消費量が低下する傾向が認められた。このように、食経験が食餌選択に与える明確な影響は観察されなかったが、エネルギー代謝に及ぼす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の研究に関しては、上記研究概要に記したようにおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は食経験がエネルギー代謝機構へ与える影響について検討する。平成29年度の研究において、甘味刺激を経験したマウスでは食餌選択性に明確な影響は観察されなかったが、体重が増加する傾向が認められた。当初、食餌選択性が変化することにより、体重の変化が導かれると予想した。しかし、実際には食餌選択性に差は認められなかった。そこで、本年度は主にこの現象に関して、詳細な検討を行う。まず、エネルギー代謝の変化が甘味受容体を介した甘味シグナルに起因した作用であるかどうかを、甘味受容体T1R3 KOマウスを用いて検討する。また、甘味以外の食経験によっても、エネルギー代謝の変化が観察されるかどうかについても検討する。 これまでに、食経験に伴う嗜好性の変化に脳内報酬系が関与することを見出している。実際に報酬系が嗜好性の変化に関与するかどうかを調べるために、薬理遺伝学的な手法の導入を試み、報酬系の活性と嗜好性の変化について観察する。
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