研究課題/領域番号 |
16H03056
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大谷 実 金沢大学, 学校教育系, 教授 (50241758)
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研究分担者 |
伊藤 伸也 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (10570434)
布川 和彦 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (60242468)
日野 圭子 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (70272143)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 関数 / 創発的モデル化 / カリキュラム開発 / 言語活動 / ICT環境 |
研究実績の概要 |
本研究では,中・高の数学科の学習指導で大きな困難を伴う関数領域カリキュラムを「創発的モデル化」の視点から再編成した改善案を提案する.その際,研究者と中・高の熟練教師がチームを編成し,言語活動とICT環境を加味した創発的モデル論を再構築するとともに,3つの課題解決を目指してデザイン研究を実施した:言語活動の新しい知見とICT環境を加味し,創発的モデル化論を改良する;中学から高校にかけての関数領域の単元をデザインし,教授実験を実施する;教授実験の質的分析に基づき,改良された創発的モデル化によるカリキュラムを評価し,改善案を提案する. 中学校に関しては,金沢市近郊の公立中学校の第3学年の1クラスにおいて「関数y=ax^2」の単元で教授実験を行った.授業デザインは大谷と授業担当が原案を作成し,日野を中心に主導的談話の形態を支店として改良を行った.また,布川は新しいGeoGebraアプレットを多数開発し,それを用いて変化の特徴が主導的話題となるような授業を展開することができた.授業でのデータ収集は,大谷と伊藤が担当し,単元全体計18時間の授業データを収集し,授業後は,全生徒のワークシートをPDF化し,それをもとに全員で分析を行った.これらのデータを談話とICT環境の視点から分析した結果,談話に関しては関数の特徴を根拠にする高次のレベルが不足しており,低次のレベルにとどまっていることが課題として見出された.ICTに関しては,生徒の関心を関数の動的側面へ向けることができることが示唆された. 高等学校に関しては,附属高等学校数学科教員と,オランダの教育測定研究所の問題を中心に,授業のデザインのための教材研究を行った.関数に関しては,中学校と高等学校では大きなギャップがあり,高等学校で現実世界からの数学化を重視する創発的モデル化の視点を取り入れた我が国にはない関数教材を見出すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中・高の数学科の学習指導で大きな困難を伴う関数領域カリキュラムを「創発的モデル化」の視点から再編成することができた.特に,中学校では関数領域全体で,言語活動とICT環境を加味した創発的モデル論に基づくカリキュラムを開発が一旦終了することになる.加えて,中学校での関数学習を支援するICT環境として新しいGeoGebraアプレットを多数開発し,それを用いて変化の特徴が次第に主導的話題となるようにカリキュラムに組み込むことができた.これらのアプレットを用いた関数学習を通して,従来には実現が難しかった関数本来の特徴である動的側面や変化の特徴に生徒の意識を向ける可能性が示唆された点で,一定の期待される成果が得られた.こうしたICT環境のプラス面に対して,他方で,授業における主導的談話がどうあるべきかについて分析を行った結果,中学校における主導的談話がいまだに低次のレベルに留まる傾向があることも明らかになった.このことから,変化の特徴を主導的話題となるような談話を授業においていかに実現するべきかという課題も残された.これは,基本的に創発的モデル化に基づく関数のカリキュラム開発において「教授・学習軌道」という長期的な水準の上昇をより意識していくことが重要であり,関数のカリキュラム開発における更なる改善の視点が明らかになった.創発的モデル化に基づく関数のカリキュラム開発において「教授・学習軌道」の重要性は,高等学校における関数カリキュラム開発において一層重要性を増すことになり,そのような共通理解のもとで,オランダでの教育測定研究所の高等学校での教材を参考にして,我が国の高等学校での関数教材を見直す指針を得ることができ,現実世界からの数学化を重視するような教材を組み入れたいくつかの事例を作成することができた.これらのことから,当初の研究計画は概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえて,今後の研究を推進する上で中心的な課題は二つある. 一つは,中学校で開発したICT環境の効果的な機能を生かしつつ,関数の動的側面や変化の特徴が主導的談話となるように授業での教師の言語活動を見直すことである.特に,第一の思考水準である帰納的思考から第二の思考水準である演繹的思考へと移行する中学校の特性に鑑みて,関数の特徴を演繹的に説明することが主導的談話となるように言語活動を組織する.その際には,中学校3年間を通して「教授・学習軌道」の考えに合致しつつ演繹的な説明の割合が徐々に高まるような手立てを明確にしていきたい.特に,「変化の割合」を視点として,中学校3年間を通した水準の上昇を明確にしていきたい. もう一つは,中学校と高等学校の間に存在する関数カリキュラムのギャップを,創発的モデル化,ICT活用,主導的談話を視点として埋めることである.今後は,オランダの教育測定研究所の教材のみならず,オランダの高等学校の教科書も参考とし,創発的モデル化として現実世界からの数学化を重視するような教材を組み入れた「教授・学習軌道」を明確にし,その教授実験を行うことで,我が国の高等学校の関数カリキュラムに新しい代替案を提言したい.
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