研究課題
本州最北部に展開した更新世人類集団による資源利用の実態に迫るべく、以下の作業に取り組んだ。夏季の2週間を費やし、尻労安部洞窟(青森県下北郡東通村)の発掘調査を進めた。洞窟最奥部を精査すべく調査区を拡張したため更新世の包含層については小区画を発掘するにとどまったが、上層に堆積した完新世の包含層から、最終氷期にマンモス動物群の一構成種として列島に流入したと言われる絶滅種オオヤマネコLynxに少なくとも2個体分、30点以上という過去に先例を見ぬ纏まった数の資料を得ることができた。同発掘期間中には、尻労安部洞窟出土台形石器の入手域として下北半島内に唯一その可能性を残す川内川・大佐井川水系を踏査し、台形石器の石材との異同を論じるに必要な比較サンプルも得た。過年度出土したヒグマ歯牙についてはaDNA解析を試み、現生の北海道個体群との系統関係を探ろうとしたが、残念ながら遺伝子の増幅には至らなかった。もっとも、マイクロCTによる同犬歯断像の観察には成功し、同資料が満2歳の秋に死亡したことを確認するに至った。本成果は洞窟を利用した旧石器時代人の狩猟活動を考える上で極めて大きな意義をもつ。過年度発掘調査時に出土した地域絶滅種ヒグマ、ヘラジカの歯牙についてAMS14C年代測定も進め、それぞれ較正年代3万年を遡る測定値を得た。さらに、過年度の発掘調査概要と出土遺物の研究成果について伝える英文論文を査読誌に投稿する準備も進めた。なお、上記研究成果の一部はウェブサイトでの発信も行った。また、発掘期間中には地元高校生と小学生を対象とする体験発掘とミニ・レクチャー、昨年末には青森県埋蔵文化財センターの求めに応じ、青森県民に向け尻労安部洞窟の発掘成果とその意義を発表し、アウトリーチ活動にも努めた。
3: やや遅れている
夏季に実施した尻労安部洞窟の発掘調査については、洞奥部の発掘を安全に進めるべく、調査区を新たに拡張した。その結果、完新世の遺物包含層の発掘に手間取ることとなり、更新世の遺物包含層の発掘を予定より小規模に行わざるを得なかった。洞奥部更新世堆積層の発掘については次年度以降、本格着手することとなるため、同出土遺物の分析にもその分遅れが生じることは避けられない。
昨年度の研究推進状況を踏まえ、本年度も、昨年度同様夏季に2週間を費やし、尻労安部洞窟(青森県下北郡東通村)の洞奥部の発掘調査を継続し、更新世動物化石や石器に追加資料を得るとともにに、更新世人骨の発見も目指す。また、過年度出土台形石器については、その石材を特定すべく、津軽海峡を挟み対峙する渡島半島南端の遺跡出土資料群と産出岩石とのとの比較・観察を進める。昨年度準備を進めた過年度の発掘調査並びに同成果の概要を伝える英文論考については、本年度中に国際誌へ投稿、早期の刊行を目指す。加えて、昨年度出土したオオヤマネコ遺体についても、年代測定並びにDNA解析を進める。同種についてはDNA解析が実施された先例がないことから、増幅に成功し、大陸現生種との系統関係が明らかとなれば、生物地理学的に特筆すべき成果となろう。同資料については、すでにその発見が新聞報道もされ注目も集めていることから、その年代と、形質を含めた動物考古学的所見、DNA解析や安定同位体比による食性分析の結果などを原著論文として纏める作業にも取り組みたい。もとより新規に出土する更新世動物化石群については同定・観察を進め、必要に応じ年代測定も実施する。さらに、研究成果については引き続きウェブサイトでの発信に努め、夏季発掘期間中にはアウトリーチ活動の一環として、地元の高校生を対象にフィールドスクール等の開催も計画したい。
(1)のサイトは日英二言語にて情報を発信している。英文ページのタイトル・URLは以下に示す通りとなる。Research of the Sitsukari-Abe Cave in the Simokita Peninsulahttp://web.flet.keio.ac.jp/~sato/shitsukari_eng/index.html
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Quaternary International
巻: 425 ページ: 16-27
10.1016/j.quaint.2016.06.026
BIOSTORY
巻: 25 ページ: 110
Anthropological Science (Japanese Series)
巻: 124(1) ページ: 1-17
10.1537/asj.160417
巻: 405 ページ: 147-159
0.1016/j.quaint.2015.03.027
Journal of Archaeological Science
巻: 6 ページ: 720-732
10.1016/j.jasrep.2015.11.025
http://web.flet.keio.ac.jp/~sato/shitsukari/index.html