研究課題/領域番号 |
16H03106
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 孝雄 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20269640)
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研究分担者 |
澤田 純明 新潟医療福祉大学, 医療技術学部, 准教授 (10374943)
鈴木 哲也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (10286635)
鈴木 敏彦 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (70261518)
奈良 貴史 新潟医療福祉大学, 医療技術学部, 教授 (30271894)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
渡辺 丈彦 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90343003)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 動物遺体 / 絶滅動物 / 人骨 / 旧石器 / 洞窟遺跡 |
研究実績の概要 |
本州最北部に展開した更新世人類集団による資源利用の実態に迫るべく、本年度取り組んだ作業とその成果は、以下の通り纏められる。 (1)昨年度に引き続き、夏季に2週間を費やし尻労安部洞窟の発掘を進め、2001年度以来着手してきた調査区の一部において基盤層まで完掘。最下層の堆積層から土壌サンプルも採取したことで、洞窟および遺跡の形成過程を復元し、最終氷期における当洞窟周辺の環境をより詳細に復元できる見通しを得た。 (2)また、当洞窟の更新世動物遺体の主体を占めるウサギの歯については、過年度、今日本州・北海道に分布域が分かたれるニホンノウサギ、エゾユキウサギの資料と比較し、いずれも前者に由来する可能性が高いことを確認。本年度はその成果を原著論文にまとめOsteoarchaeology誌に投稿した。最終氷期にあっても津軽海峡が存在し、北海道から本州へと移動できたマンモス動物群は冬季に出現した氷橋を踏破できた一部の中・大型動物に過ぎなかったとする仮説も支持する同論文の内容は、国内外の古生物学者の注目も集めるに違いない。 (3)加えて、ウサギの歯については、従来17点の試料をまとめて測定することでしか放射性炭素年代が得られていなかったが、微量試料測定を試みた結果、別個体に由来する2点の資料からそれぞれ約3万年前というほぼ一致した年代が得られた。この結果は、2m四方の範囲に集中的に出土したウサギの歯がほぼ同時期の猟果に由来する可能性を示唆してくれる。 (4)なお、この他、過年度、下北半島、津軽半島の1級・2級河川から採集した白色を呈する転石群と台形石器の石材について肉眼および顕微鏡下での観察所見、蛍光X線分析の結果を詳細に比較する作業も進めた。その結果、台形石器の石材が、玉髄化した珪質頁岩もしくは泥岩である可能性が示唆され、本州北部においても調達できた可能性も指摘するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尻労安部洞窟最奥部の発掘作業にやや遅れが生じている。これは、上層に堆積する完新世の層準から縄文文化期の良好な動物遺体群が予想以上に出土したため、その記録と採集に手間取ったことに因る。 もっとも、同遺体群には国内最大にして突出した数にも当たる最小2個体に由来する70点以上ものオオヤマネコ遺体が含まれていた。それらについては、既にマイクロCTによる同種歯牙断層の観察結果から年齢・死亡季節も特定し、aDNAの分析から大陸種との系統関係も確認。さらに安定炭素・窒素同位体比の分析からその食性までも明らかにするなど、国内にあって過去に類を見ない研究成果も得られつつある。オオヤマネコが最終氷期の最寒冷期にマンモス動物群の一種として列島に流入したとみる向きもあることも鑑みた時、その生態・絶滅要因などにつき知見を得たことは、発掘計画の遅れを補って余りある成果とも言える。 なお、既出資料に関する様々な分析に関しては概ね順調に進んでおり、当初予定した研究計画も本年度・次年度であらかた達成できる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は以下の作業にも取り組む予定である。 (1)尻労安部洞窟について、引き続き更新世層準の発掘調査を進める。 (2)台形石器石材とオオヤマネコ遺体に関する研究成果を論文にまとめ、査読誌に投稿する。 (3)洞窟最下層から出土した獣骨片について、年代測定とともにZooMSによる属・種の同定も試みる。 (4)洞窟最下層から採取した土壌サンプル中に含まれる花粉を分析し、洞窟周辺の古植生の変遷も把握する。
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