研究課題
社殿や塀などで利用されている漆塗り木材の表面に真菌が発生し,黒く変色する問題がある。この変色に関わる真菌についてはよく分かっておらず,光触媒の殺菌力を利用する前段階として,これら真菌叢の同定が先決である。その理由はこれまでの研究によって,真菌の種類(酵母形や糸状形などの形態の違いや,産生色素の有無)によって光触媒による殺菌効果に違いが見られることが分かっているからである。そこで,日光の社寺の漆塗り木材に生えている真菌叢を採取し,分離を行うことで,どの様な真菌が漆に悪影響をおよぼしているのかを18S rRNA遺伝子を用いて,得られた真菌の同定を行った。現時点で34株の真菌が分離できた。その中でも黒く漆材を変色させている可能性が高いPenicillium属とCladosporium属に近縁な真菌の存在を確認することができた。一方,漆材への光触媒コーティングについても検討を行い,コーティング有無による漆材への紫外線劣化の影響を調査した。コーティングがない場合,紫外線照射によって漆材表面が徐々に粗くなることが分かった。更に長時間照射すると漆表面に細孔が生じることが明らかとなった。FTIRスペクトル解析によって,紫外線照射によって劣化するのはウルシオール重合体であり,漆を構成している水溶性多糖類部分が維持されるため,部分的に劣化が進み細孔が生じたと考えている。光触媒をコーティングした場合,ディップコーティングではスプレーコーティングに比べて膜厚が薄くなるため,紫外線を十分に吸収できないことが分かった。しかし現在のところ,成膜方法によらず漆材の光沢が減少することがヘイズ測定から判明し,漆本来の意匠性が損なわれていることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の計画に基づいて順調に進捗している。日光の社寺の現地調査を行い,漆材の変色原因となる真菌を特定し,一方,光触媒コーティングによる紫外線劣化防止についても取り組んでいる。
今後は,他の分離株についても同様に系統解析を行うと共に,培地で培養できない真菌についてもPCR-DGGE法などの非培養法を用いて解析を行うことで,日光の社寺で使われる木材に生える真菌の網羅的な真菌叢解析を行う予定である。さらに,それらの真菌に対して実際に光触媒反応を作用させ,殺菌効果があるのかについても明らかにしていく必要があると考えている。また,光触媒コーティングについては,漆材上にコーティングした場合でも,IRスペクトルの変化や退色から十分に紫外線を吸収できないことが分かった。そこで,光触媒層の膜厚制御やゾルゲル法を用いた成膜等も検討し,紫外線の吸収と漆材の意匠性の両立を目指す。
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J. Appl. Electrochem.
巻: 47 ページ: 197-203
10.1007/s10800-016-1031-4