研究課題/領域番号 |
16H03109
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (60332136)
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研究分担者 |
川村 洋平 秋田大学, 国際資源学研究科, 教授 (40361323)
松井 敏也 筑波大学, 芸術系, 教授 (60306074)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 博物館 / 美術品 / 文化財 / 輸送 / 振動 / 衝撃 / 環境 / 梱包 |
研究実績の概要 |
2018年度は、まず美術品の陸上輸送における輸送環境への走行路面の影響、走行速度の影響を検証した。基本的に車両速度が高いほど振動レベルは大きくなり、また、首都高速道路等の高架における伸縮接手箇所がトラック荷台上で生じる振動への影響が大きいことを検証した。付随する成果として車両の個体差、荷台上の位置による差異も考慮すべき因子であることも判明した。これらの成果は美術品の荷台への積込み位置を厳密に選択する際に有用なデータとなり得る。 また、これまでほぼ明らかにされなかった海上輸送時の環境データを解析し、その特徴を捉えることができた。海上航海中は非常に安定した輸送環境であったが、乗船および下船時にやや大きな振動レベルが生じることも検証した。 美術品の梱包に緩衝材として多用されるポリエチレンフォーム材の振動応答特性の評価試験によってその特性を検証した。具体的には緩衝材への静的荷重が大きいほど共振周波数が低周波側へシフトし、また緩衝材へ入力される振動加速度が大きいほど共振周波数が低周波側へシフトする特性を把握できた。この検証により、緩衝材の特性を評価する手法の一般化および評価に基づく梱包設計の手順を提案することができた。 さらに、美術品の素材が振動を繰り返し受けることによる損傷について、損傷に至るまでの加振回数と振動加速度との関係がS-N曲線によって表現できることを検証した。この検証が美術品の素材には輸送によって蓄積疲労現象が生じることに関する科学的な根拠となった。 最後に、これまでの研究成果をまとめ、美術品の陸上、海上、航空輸送時に生じる振動と衝撃の評価手法に関する新たな指標として"STAY Index 1.0"を定義し、提案することができた。 以上を、学会等発表、論文発表として成果をとりまとめ、社会への公表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全体の研究計画は、輸送機関上で発生する振動、梱包資材の振動応答、美術品(素材、模造品など)の振動応答をそれぞれ調査し、最終的にそれらの情報を集積した科学的な梱包設計システムの基礎を構築するものである。2018年度は輸送機関上で発生する振動、梱包資材および美術品素材の振動応答について十分な成果が得られた。また、輸送環境内で美術品が受ける負荷が蓄積疲労としてその素材を消耗する現象について検証できた。美術品の活用に伴い、内部に蓄積する疲労を新たな環境因子として提案することにつなげられたことは研究上の大きな進展であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
美術品の素材における蓄積疲労現象の検証だけではなく、美術品の具体的な形状を幾つか選択し、レプリカを用いた加振試験を行う。加振試験によって美術品の寸法や形状の組み合わせと共振周波数との関係を導く。こうした美術品の振動特性が判明すれば、共振を効果的に回避するための梱包資材の使用法を提案できると考える。並行して、梱包資材の振動特性をさらに収集あるいは実験して把握することで、梱包資材の使用法をより正確に提案できる。 これらの情報を総合的に取り扱い、今後輸送される美術品に対しての梱包設計の程度によって、輸送中に美術品へ蓄積する疲労を見積もることができる。その結果、美術品が損傷するまでの残存寿命と輸送時間とのバランスを考慮した活用計画を立てるための指標を策定したいと考えている。
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