研究課題/領域番号 |
16H03122
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
川端 信義 金沢大学, 機械工学系, 教授 (90126631)
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研究分担者 |
長谷川 雅人 金沢大学, 機械工学系, 助教 (40324107)
清家 美帆 富山県立大学, 工学部, 助教 (70757244)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 火災 / 流体工学 / 道路トンネル / 避難行動 / 煙 |
研究実績の概要 |
(1)実大トンネルを用いた煙中の避難速度確率分布曲線の計測 平成29年度の主な目的は、避難速度の確率分布曲線を確定することであり、そのために平成28年度の実験と合わせて、各年代、性別毎に5名以上となるように被験者の選定を行った。煙中の避難速度の基本的な特性として、通常歩行時と緊急避難時のそれぞれの想定時について確率密度曲線について検討を行った。その結果、特に緊急避難時において対数正規分布曲線がよく一致することが分かった。また、60歳以下であれば年齢による影響は小さく、煙が濃い場合は男女の違いもほとんどなくなることが確認できた。これらの成果は、平成30年度中に学術Journal誌に投稿するべく準備中である。さらに、トンネル空間における最低避難速度としての暗中歩行速度の確率分布曲線を明らかにするため、アイマスクを装着して歩行実験を行った。その結果、建物内の暗中歩行速度とされている0.3m/sより若干早くなることが確認できた。この成果についても投稿準備中である。 (2)水噴霧による吸熱効果に関する実験 平成29年度は継続して水噴霧実験を行い、温度分布の経時変化を求めることと水滴の蒸発モデルをシミュレータに組み込んで実験結果と比較検討することを目的として取り組んだ。その結果、実験結果と定量的によく一致する結果となることを確認できた。区画内の平均温度はわずかにシミュレーションの方が高い結果となるが、その原因は床及び側壁の濡れを考慮していないことにあると推測している。なお、実大トンネル空間では相対的に床、壁面の濡れの影響は小さくなると考えられ、影響は小さいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)実大トンネルを用いた煙中の避難速度確率分布曲線の計測 28年、29年度の実験を合わせて、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳以上の男女それぞれ5名を被験者として実験を行い、基本的な歩行速度および本研究の特徴でもある緊急避難時の避難速度の確率分布曲線を決定することができ、避難速度のデータについては収集が完了した。また、トンネル空間における最低避難速度としての暗中歩行速度についても統計解析するに足るデータを得ることができた。高齢者体験セットおよび白内障ゴーグルを装着しての避難実験については、ある程度のデータ数を収集したが、統計解析するに十分な数とは言えない。 平成29年度の予定として、黒色発煙筒による煙中の避難実験を計画していたが、実験実施者側で試験的に行ったところ、煙による刺激が強く一般被験者に対しての実施は不適切と判断して中止とした。また、避難開始のタイミングについての実験を平成29年12月に実施する計画であったが、例年よりかなり早い積雪でトンネルへのアクセスが困難になり、中止せざるを得なかった。 (2)水噴霧による吸熱効果に関する実験 水噴霧による水滴からの吸熱モデルは蒸発を考えたモデルを導入してシミュレータを開発し、2m角空間内での水噴霧模型実験結果との比較を行い、水噴霧あり、なしともにシミュレーションと定量的によく一致する結果を得た。今年度予定した内容は順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的はトンネル火災時の煙の挙動と避難者の行動を同時に再現するシミュレータの高精度化である。最終年度となる平成30年度は、本研究の成果を取り入れて改良したシミュレータを完成させる。熱と気流計算のシミュレータは水噴霧シミュレーションの確認が済み、開発が終了しており、平成30年度の目標は実大実験との比較・検討となる。避難シミュレーションについては、避難実験で得られた避難速度確率分布曲線に基づいて各避難者の歩行速度を決定して避難シミュレーションを実施することにする。なお、避難開始のタイミングに関す実験については、煙を成層状態にするための火源が必要なためトンネルの管理者(福井県)との火の使用に関する調整が必要であるが、許可については未定である。もし実施できなかった場合の代替として、トンネル火災時の避難に際して非常に重要であるバスの乗客の避難のタイミングについて解明することを新たな研究内容として考えている。さらに開発したシミュレータを用いて、下記の内容の検討を進める予定である。 ・実大トンネルにおいて水噴霧を行った火災実験(新東名高速道路 清水第3トンネル)結果と本シミュレーション結果との比較を行い、本シミュレーションが実大トンネルに対して有効であることを確認する。 ・火災時の排煙方式として、欧米では1点から3点の集中排煙方式がよく用いられる。一方、日本では縦流換気方式が主流であり、同一のトンネルに対してそれぞれの排煙方式について検討し、それぞれの優劣について検討する。 ・実際の火災事故の際にはトンネル内には滞留車両が存在する。しかしながら既存のトンネル火災安全検討に関する研究例では、ほとんどが滞留車両は存在していない。したがって、滞留車両が煙の流動に与える影響について本シミュレーションによって解明する。
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