本研究は、我が国の製造業を支える熟練技能について、熟練作業者の運動制御と脳活動の側面から検討することを目的としている。 本年度は、実験室において「お手玉」作業に習熟する過程について検討を行った。「お手玉」は、玉を投げる、玉を見る、玉を受け取る、玉を渡すといった動作のいくつかを同時に行わなければならない。これらの動作には、正確な投げと受け手の微妙な位置調整が必要で、人間の感覚器と動作とを協調させ、一定時間内に処理を完了する必要がある。これは、身体動作と人間の内部処理を統合することが必要で、製造業における熟練技能と類似した特徴がある。 実験では、作業者の運動制御と脳活動の変化を観察するために、6か月間にわたり「お手玉」作業の訓練を実施し、訓練中の作業者の動作をモーションキャプチャを用いて、作業者の脳活動をf-NIRS(近赤外分光装置)を用いて測定した。 その結果、運動制御については、訓練の経過に従い向上する傾向が認めれ、約3か月程度で一定の運動が遂行可能な程度に習熟することが認められた。その一方で、脳活動は6か月間の訓練を通しても、Oxy-Hbはほぼ単調増加する傾向にあり、活性化し続けることが認められ、運動制御のような安定状態には至らなかった。このことは、運動制御と脳活動の習熟スピードには差異があることを示しており、従来のような運動の観点のみから、作業者の習熟状態を判断できない可能性があることが示唆すると考えている。
|