研究課題/領域番号 |
16H03125
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
志田 敬介 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (40365028)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 技能伝承 / 認知科学 |
研究実績の概要 |
本研究は、我が国の製造業を支える熟練技能について、熟練作業者の運動制御と脳活動の側面から検討することを目的としている。 本年度は、実際の工場において「塩ビ溶接作業」を対象にして、作業習熟と脳活動の関係について検討を行った。「塩ビ溶接作業」は、体性感覚全般、すなわち主に触覚といった皮膚感覚と深部感覚が求められる。また、視覚・聴覚・嗅覚も作業の熟練に連れて肝要となる。皮膚感覚は、皮膚表面における感覚であり、溶接中の温度や溶接棒の溶け具合を触れることで必要とする。体性感覚は、熱風を放出するガンを一定速度で振り続ける動きや溶接棒の微妙な押し圧を調節しながら溶かしていくことで必要で、これらの手や腕の運動の制御を行う機能を備えた前頭前野を見ることは、作業の習熟を解析する上で有用と考えた。 実験では、作業者の運動制御と脳活動の変化を観察するために、溶接熟練者3名、中級者1名、初心者6名を対象に、作業者の脳活動をf-NIRS(近赤外分光装置)を用いて測定した。 その結果、従来方法のNIRSで測定で用いられるRawデータを用いて,Oxy-Hb濃度変化量のTask平均とRest平均の差分から脳の活性化度合いを見るだけでは,作業者の習熟程度を評価するには不十分であることが示された。具体的には、作業の熟練者の特徴に関して、以下の3点を明らかにした。 (1)低難度の溶接作業では、脳の活性化度合いは大きくなく、作業中の脳内の活性化の仕方は、作業が始まると素早く脳を活性化させ、その後ゆっくりと活性化が継続する。(2)高難度の溶接作業では、脳の活性化度合いは小さく、作業中の脳内の活性化の仕方は、作業が始まると緩やかに脳を活性化させ、その活性化が継続する。(3)脳活性化課題作業を行った時よりも熟練した溶接作業のほうが脳の活性化度合いが小さいこと。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに計画していた実験は、計画通りに進行しており、次年度以降は、実作業での解析結果をもとに、熟練作業者と非熟練作業者を層別する方法を構築する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作業者の習熟程度を脳活性の観点から評価する方法についての検討を進める。 具体的には、被験者に非常に習熟した作業と、習熟していない作業を課し、その際の脳活性の違いから検討を進めてゆき、本年度に実施した実際の工場における熟練作業者及び非熟練作業者の脳活性の相違について、理論的な背景を説明をしうる実験を推進する予定である。 年度前半において実験を進め、後半においては、その解析及びモデル実験を行い、作業技能についての考察を深めてゆく。
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