作業者の習熟程度を評価する指標として、一般に、同一作業の繰り返しに伴い減少する作業時間が用いられる。しかし、実際の製造現場では、作業時間が十分に低減したのちも、作業ミスによって製品品質に影響を及ぼす問題が生じており、習熟程度を評価する方法として作業時間を用いるだけでは、十分であるとは言えない。そこで、従来までの作業時間の評価に加え、作業者の前頭葉の活性を用いて習熟程度を評価する方法について検討した。具体的には、心理学実験で用いられる鏡映描写作業を課題作業とし、前頭葉の活性についてf-NIRSを用いて評価した。実験では、課題作業を利き手で訓練し、利き手で習熟程度を評価する被験者群(第1群)と非利き手で訓練し、利き手で評価する被験者群(第2群)に被験者を分けた。第2群の被験者群を評価することで学習の転移について検討できる。学習の転移とは、以前に学習した動作が後の動作の役に立つ知識のことで、その動作に関する暗黙的な知識が多く含まれる。この暗黙的な知識の獲得は作業習熟に不可欠で、この知識の獲得程度を正しく測定することが、これまで困難であった。 実験の結果、両群とも作業の繰り返しに伴い、作業時間と作業品質の向上に加え、前頭葉の活性が減少する結果が得られた。特に第2群では、非利き手で訓練し、利き手で評価する条件であるが、評価時の前頭葉の活性は低下した。その要因として、学習の転移によって課題作業に関する暗黙的な知識が獲得されたことが考えれる。これらの結果より前頭葉の活性状態を評価することで、暗黙的な知識も含めた作業への習熟について評価できる可能性が示された。
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