研究課題/領域番号 |
16H03133
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
若月 薫 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (60408755)
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研究分担者 |
森川 英明 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10230103)
鮑 力民 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10262700)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 防護服 / 紫外線ばく露 / 機械的強度 / 熱伝達 / 高機能繊維 |
研究実績の概要 |
本研究の大きな目的は、防護服に使用されるアラミド等の高機能布地の経年使用に対する強度・耐熱性の機能低下の予測手法を確立し、個人防護服が製品出荷時に持つべき性能の余剰安全度を研究するものである.現代の防護服はアラミド繊維のような高機能繊維を用いて作られており,高機能繊維は紫外線によって機械的強度の低下のような性能劣化が起こることがわかっているが,紫外線による防護性能の低下は評価されていない.平成28年度の成果を元に,防火服が1年間使用される上でどの程度の紫外線に曝されるのかを見極め,H29年度は市販の試験片を用いた促進劣化作業を行い,劣化後の試験片に対し,引張及び着火性試験を行った.H30年度は,織物や糸構造に対する紫外線ばく露の関係を明らかにするため,混紡率の同じアラミド繊維の織物及び糸構造を変化させた生地を用い,混紡比・織物構造・糸構造という3つのパラメータから劣化原因を突き詰めた.双糸から織られた生地は,リップストップ構造が異なるにも関わらず,10年相当のばく露で同等の引張強度を示した.二重構造糸を用いた生地は10年相当のばく露の際にも顕著に高い引張強度を保持した.引張強度は,織物構造より糸構造に依存した.動的引き裂き強度は,リップストップの間隔及び糸数が影響を与えた.各生地で比較し強度を見ると,初期段階では大きな差がない.しかし,紫外線ばく露を重ねるうちに各生地間で,二重構造糸>双糸と優劣が生じた.少ないばく露時間は,引っ張り強度は生地に織り込まれているリップストップの構成に依存したことから,使用時間の短い際はリップストップを構成している糸の本数が引き裂き防止に重要で,使用期間が長い際は,糸の構造が引き裂き強度に重要であった.紫外線ばく露に対する引張強度は、糸構造に依存するものが多く,特に二重構造糸は,紫外線劣化を妨げるため高い強度を保持するために有効な手段と考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は,この織物構造や糸構造と紫外線ばく露の関係を明らかにするため,混紡率の同じアラミド繊維の織物構造及び糸構造を変化させた生地を製作し,混紡比・織物構造・糸構造という3つのパラメータから劣化に関する原因を突き詰めた.具体的には,織り方における「リップストップ構造」や「糸構造の特殊化」を中心とした検討を行った. 双糸から織られた生地は,リップストップ構造が異なるにも関わらず,524時間ばく露(10年相当)では同等の引張強度を示した.しかし,二重構造糸を用いた生地は524時間ばく露の際にも顕著に高い引張強度を保持した.つまり引張強度では,織物構造より糸構造に依存していた. 動的引き裂き強度において,リップストップの間隔及び糸数が結果に影響を与えることが分かった.各生地で比較し強度を見ると,初期段階では大きな差がない.しかし,紫外線ばく露を重ねるうちに各生地間で,二重構造糸>双糸と優劣が生じた.ばく露時間が少ない期間では,生地に織り込まれているリップストップの構成に依存していることを示していることから,使用時間の早いうちはリップストップを構成している糸の本数が,引き裂き防止には重要である.一方,使用期間が長くなる際(紫外線ばく露を重ねると),糸の構造は,引き裂き強度に影響を与えることが明らかになった.引張強度において,紫外線をばく露した生地の強度は、糸構造に依存するものが多く,特に二重構造糸は,紫外線劣化を妨げるため高い強度を保持するために有効な手段と考える.本年度は機械的強度の背景にある織り・糸構造というかなり細かい面に着目したことで,期待される研究成果が多く得られるとは思わなかったが,研究当初の想像をはるかに超える知見を得られたことで,研究が順調に進展したと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 使用年数に対する機能低下の予測モデルの確立(H31年度上期) 平成30年度までに行った実験結果をもとに、紫外線強度・ばく露時間をパラメータとする長期間使用における機能低下の予測モデルを確立する. 紫外線強度と防護服が有する機械的強度/耐熱性はH30年度までのデータを元に,アレニウス型の指数関数的に減衰すると予想される.数値解析ソフト(Matlab)のDataanalysisツールボックスを用い,フィッティングを行い,数式モデルを作る.前年度までの研究で,糸を構成するアラミド繊維及び他の高機能繊維の混紡率に対する減衰係数を計算し,連立させることで,アラミド繊維,高機能繊維それぞれが純粋に持つ減衰係数を導き出す.その結果を利用することで,任意の混紡率に対する減衰係数を計算し,その減衰係数を元にした指数関数型減衰モデル式を作る.最後に,実験によるValidationを行い,予測モデルの有効性を確認する. (2) 余剰安全度を踏まえた高機能布地を使用した個人防護服の設計手法・交換頻度ガイドラインの確立(H31年度下期) 上期で作成した使用年数に対する機能低下のモデルをもとに、個人防護服が使用される年数に対する製品出荷時に持つべき余剰安全度の設計を実施する.また、この予測モデルから、現状品の製品規格等で求められている性能が何年後に基準値を下回るかの予測を行い、長期間における防護服・布地製品の交換頻度ガイドラインを作成する.
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