本研究の大きな目的は、防護服に使用されるアラミド等の高機能布地の経年使用に対する強度・耐熱性の機能低下の予測手法を確立し、個人防護服が製品出荷時に持つべき性能の余剰安全度を研究するものである.現代の防護服はアラミド繊維のような高機能繊維を用いて作られており,高機能繊維は紫外線によって機械的強度の低下のような性能劣化が起こることがわかっているが,紫外線による防護性能の低下は評価されていない.平成28年度の成果を元に,防火服が1年間使用される上でどの程度の紫外線に曝されるのかを見極め,H29年度は市販の試験片を用いた促進劣化作業を行い,劣化後の試験片に対し,引張及び着火性試験を行った.H30年度は,織物や糸構造に対する紫外線ばく露の関係を明らかにするため,混紡率の同じアラミド繊維の織物及び糸構造を変化させた生地を用い,混紡比・織物構造・糸構造という3つのパラメータから劣化原因を突き詰めた.各生地で比較し強度を見ると,初期段階では大きな差がない.しかし,紫外線ばく露を重ねるうちに各生地間で,二重構造糸>双糸と優劣が生じた.少ないばく露時間は,引っ張り強度は生地に織り込まれているリップストップの構成に依存したことから,使用時間の短い際はリップストップを構成している糸の本数が引き裂き防止に重要で,使用期間が長い際は,糸の構造が引き裂き強度に重要であった.H31(R1)年度は,実験結果をもとに、紫外線強度・ばく露時間をパラメータとする機能低下の予測モデルを確立した.紫外線ばく露量の割合(Q/Q0)と強度保持率(I/I0)の関係から,紫外線ばく露による防火服生地の機械的強度劣化をモデル化できることを示した.過去3年間はアラミド繊維を主とした高機能繊維生地であったが,応用例として PBI(ポリベンゾイミダゾール)とアラミド繊維の混紡生地の劣化について調べ,モデルが適用できることを確認した.
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