研究課題/領域番号 |
16H03151
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松浦 純生 京都大学, 防災研究所, 教授 (10353856)
|
研究分担者 |
平島 寛行 国立研究開発法人防災科学技術研究所, その他部局等, 主任研究員 (00425513)
松四 雄騎 京都大学, 防災研究所, 准教授 (90596438)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 極端気象 / 森林斜面 / 融雪特性 / 積雪層内浸透過程 / 間隙水圧の変動特性 / 地盤災害 |
研究実績の概要 |
メソスケールの擾乱により夜間に強風が吹いたイベントについて解析を行ったところ、顕熱フラックスは500W/m2にも達することが分かった。このイベントにより多量の雪が解け、地すべりが発生した。この結果をもとに、極端気象時のみかけのバルク係数を算出したところ、従来の係数よりも大きな値を得た。したがって、強風時の森林斜面では予測以上の融雪が発生することを実際の観測で明らかにした。 積雪層中の不均一浸透過程を再現するため、積雪変質モデルSNOWPACKを改良し2次元、3次元の積雪中の水分浸透モデルの開発を進めてきた。これらのモデルは室内実験や野外観測による実測値を用いて検証されている。また研究内容は雪氷やHydrology and Earth System Sciences、Cold Regions Science and Technology、Annals of Glaciology等の学術雑誌に掲載されている。 積雪期間における斜面地盤内部への融雪水等の浸透過程を明らかにするため、通年にわたる気象・水文観測データを詳しく解析した。その結果、地表への水供給に対する間隙水圧の応答は、夏期には鋭敏な増大を示すのに対し、冬期には相対的に抑制されることが明らかとなった。このことは、積雪下の地表面では、ホートン流がパッチ状に発生することで地中浸透量が減少するとともに、高い地下水位が維持される融雪期には高透水性の最表層土を通じた効率的な排水が生じることが明らかとなった。これらの季節ごとに異なる間隙水圧の応答特性は、鉛直一次元浸透モデルを用いた計算によって再現でき、不飽和帯の機能を経験的なパラメータとして取り込むことで、地すべりの安定に関わる間隙水圧変動を予測できることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三成分風向風速計を用いた高頻度観測により、極端な気象現象時における融雪現象を捉えることができた。強風時の乱流構造と融雪の関係を明らかにするため、現地観測データの一次的な解析と室内実験データの比較を行ったところ、山地森林斜面における強風時の融雪予測精度を向上できる見通しを得た。 昨年度に続きSNOWPACKを用いて伏野試験地における積雪状況及び水分浸透を計算した。昨年度問題となっていたざらめ雪の割合の過大評価に関しては、今年度は水みちを考慮できるよう改良されたSNOWPACKを用いることにより過大評価が緩和された。また、積雪変質モデルの出力を2次元の水分移動モデルで積雪の初期条件として扱うことを可能にし、任意の時期における不均一な水分移動過程の計算が可能となった。さらに、積雪変質モデルを面的に計算するモデル”ALPINE3D”を用いて伏野試験地を対象に計算を行い、積雪分布や底面の流出の面分布の推定が可能になった。 2年間に及ぶ気象・水文観測を行なった結果、厳冬期においてフェーンにより多量の融雪水が生じた場合には、積雪層内での選択流の発生による局所的な融雪水の供給が、間隙水圧の顕著な上昇をもたらすことを明らかにした。本強風イベントを含め、森林斜面内の地すべり地において年間を通した水文過程の季節的遷移を明らかにし、国際学術雑誌Hydrological Processesに投稿した(査読審査中)。 一方、間隙水圧の応答特性は鉛直一次元拡散モデルを用いて再現でき、不飽和帯の機能を経験的なパラメータとして取り込むことで間隙水圧変動を予測できることを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
強風時の山地森林斜面における融雪予測精度を高めるため、現地観測で得られたデータや、風洞を使った室内融雪実験の結果を詳しく解析し、森林の分布特性や粗密度が、どのように融雪強度に影響するか明らかにするとともに、簡単なパラメータを用いた融雪予測手法を開発する。 伏野における調査結果を用いてSNOWPACKやALPINE3D、水分移動モデルの検証を進めるとともに、直接観測が難しい情報の解析を行う。特に、ALPINE3Dで計算した積雪深分布の結果をドローンで測定した実測データと比較して検証するとともに、計算結果を応用して積雪から土壌への水の浸透量の分布を推定する。また、現場においても土壌への融雪水の浸透量をシンプルな形で推定できるよう、本モデルを応用し融雪強度や積雪量を入力したら底面流出の時間変化が出るツールを作成する。 本研究課題で開発した鉛直一次元拡散モデルを用いた間隙水圧の応答予測につき、不飽和帯が存在することによる間隙水圧の応答開始の遅れなどをモデルに取り込むことにより、斜面の安定に大きな影響を及ぼす間隙水圧のピーク値と出現時間をより高精度で予測できるモデルに改良する。最終年度であるため、得られた成果を積極的に論文投稿や学会発表をすることで発信する。特に、水文モデリングによって間隙水圧が季節性を持つことを明らかにした結果は、積雪地帯の斜面安定を評価する上で重要な水文メカニズムであるため、国際学術雑誌に投稿する。また、本研究課題に付随する萌芽的な研究要素として、積雪層内における選択的な浸透過程が推察されたため、最大積雪水量期の現地斜面において着色した散水実験を行う。
|