研究課題/領域番号 |
16H03157
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
間島 隆博 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (30392690)
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研究分担者 |
高玉 圭樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20345367)
渡部 大輔 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (30435771)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 輸送シミュレータ / ネットワーク / 人道支援 / 輸送システム / 災害 |
研究実績の概要 |
災害時物資輸送シミュレータの高度化については、複合輸送(トラックや船舶といった複数の輸送機関にまたがる輸送)を表現することが可能となるよう、マルチエージェントシステムを基礎とするシミュレーションシステムのエージェントに、船舶、トラック、航空機エージェントを追加した。さらに、拠点間の輸送経路も輸送機関に合わせ、道路ネットワーク、航路ネットワークに分離し、輸送機材エージェントが対応する経路上を移動するようにした。なお、航空機の場合は、航路ネットワークを構成せず、拠点間を結ぶ直線上を移動可能とすることで対応した。これより、輸送拠点において、輸送機関間で貨物の積替えが起こることを模擬することができるシミュレーションシステムが構築された。 災害時輸送システム内のボトルネック解析については、輸送拠点の処理能力(荷役のスピードや荷役スペース)、投入される輸送機材の台数や移動速度といったシミュレータの入力条件から、どこで滞留が発生しやすいのか、定量的な分析が可能となる2つの手法を開発した。一つは、平均場近似を用いた解析解であり、出荷拠点が一つの場合に応用可能である。もう一つは、積荷、輸送、荷卸し、移動で構成される輸送機材エージェントの各輸送作業を状態として定義し、状態変化の遷移確率行列を分析する手法で、出荷拠点が複数ある場合でも対応できる手法となった。これより、シミュレーション解析を行う前に、ボトルネックになりやすい輸送拠点が把握できるようになった。 さらに、災害時における物資輸送の配分法則に関しては、初年度に実施した、新潟県中越大震災の配車データの分析以外に定量的分析が可能な記録データが無かったため、避難者数に比例して配車が行われる、平等な物資配分規則を輸送機材エージェントの行動ルールとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の輸送機関を考慮できる、災害時物資輸送シミュレータの構築が完成した。また、ボトルネック解析では、2つの手法の研究開発が済み、シミュレーション解析を行う前に、ボトルネックになりやすい輸送拠点が把握できるようになった。また、救援物資の平等分配の規則は、新潟県中越地震の配車データから、実績と大きく乖離した行動ルールではないことが確認でき、輸送機材エージェントの行動ルールとして実装されており、前述のボトルネック解析は、このルールに基づいた解析手法となっている。 以上の状況より、計画通りに研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに各研究項目で得られた成果を組み合わせ、トータルシステムとしてのシミュレーションシステムの実装を行う。実装に際し、シミュレーションの計算速度やメモリー容量などに留意し、通常のデスクトップ型PCでも実行可能となるよう、計算環境への依存性が低いシステムを実現する。 複数輸送機材と複合輸送モードを可能にしたエージェントに、昨年度開発したボトルネック発見アルゴリズムを組み込み、融合した救援物資輸送ネットワークシステムを構築する。ボトルネック発見アルゴリズムは、シミュレーションを行う前に、シミュレーションへの入力データのみから、ボトルネックとなりやすい輸送拠点を明示することができる。このため、エージェントの行動ルールにこの手法を組み込み、自律的にボトルネックを回避するエージェントを実現し、輸送システムの評価に用いる輸送量に与える影響を分析する。 なお、新潟県中越大震災における物資輸送、配車データの調査結果から、被災した市町村への輸送量の履歴を分析した結果、現在のシミュレータで実装されている「平等配分」(物資の需要量に対する輸送量を表す充足率が需要地間で均一となるような配送)でも概ね妥当で、調査結果と大きく乖離しないことが分かった。このため、エージェントの輸送先の優先順位の判断には、「平等配分」に従う従来のルールを踏襲する。 ここで構築されたシステムのエージェント(ボトルネックを回避しながら、平等配分指針に基づいて行動するエージェント)を、規模が小さいネットワーク上の問題に対して適用し、計算速度などのシステムのパフォーマンスを明らかにするとともに、実規模の問題に対する適用可能性を探る。 総合評価としては、救援物資輸送ネットワークシステムにより出力される結果の妥当性、計算速度、手法の限界、拡張性に関して総合的な評価を行う。
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