研究課題/領域番号 |
16H03161
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茂呂 徹 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (20302698)
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研究分担者 |
石原 一彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90193341)
高取 吉雄 東京大学, 医学部附属病院, 客員研究員 (40179461)
金野 智浩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (80371706)
田中 健之 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00583121)
橋本 雅美 一般財団法人ファインセラミックスセンター, 材料技術研究所, 上級研究員 (20450851)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 医療・福祉 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、既に生体内に埋植された人工股関節の耐用年数を延長するイノベーションとして「生体内にある人工股関節の摺動面をMPCポリマーによって表面修飾するin situ法」を創出するための基礎研究を行うことである。本年度は、以下の3つのサブテーマの検討を行った。 1. 光反応性MPCポリマーの分子設計および高い反応性を有する分子形態の検討:本項では光反応性モノマーの分子設計を行い、その合成条件を検討した。さらに、生体親和性の高いMPCと重合し、効果的な光反応特性を発現する分子形態について最適化をすすめた。また、将来の実用化を見据え、重合開始剤を用いずにPE基材表面にMPCポリマーを直接反応する方法を創出した。 2. 光反応性MPCポリマーによる表面修飾方法の検討:本項では、PE表面での水素引き抜き反応やラジカル生成反応を光信号により誘起し、PEと光反応性MPCポリマーを共有結合させるとともに、ポリマー層内で橋かけ反応を生じることで、安定な界面創製を実現するための検討を進めた。生体親和性、耐摩耗性を効率的に発揮するための最適な光反応プロセスを、その処理条件から検討した。 3. In situ MPCポリマー処理PE表面の耐摩耗特性の検討:本項ではPin-on-disk/plate型摩耗試験、股関節シミュレーターを用い、国際規格に準じた摩擦・摩耗試験を行い、MPCポリマー層の潤滑性・耐摩耗特性を評価した。シミュレーター試験においては、国内外で汎用されている架橋PE(CLPE)の製品表面にin situ MPCポリマー処理を施して耐摩耗性を評価した。 以上の結果は、「生体内にある人工股関節の摺動面をMPCポリマーによって表面修飾するin situ法」を創出するための基礎検討を推進するための確信を得るに十分な結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 光反応性MPCポリマーの分子設計および高い反応性を有する分子形態の検討(28年度の達成度100%):側鎖末端に活性水素を有するメタクリル酸エステルを出発原料として、光反応性基を側鎖に導入した光反応性モノマーを高効率にて合成する条件を確立した。そして、これらの光反応性モノマーをPEと結合するセグメントとし、PMPCセグメントからなるブロックポリマーをリビングラジカル重合にて合成した。各セグメントの分子量を精密に制御しながら、MPCポリマー鎖を安定かつ高密度にPE表面に導入できる新たなポリマーの分子形態を最適化した。 2. 光反応性MPCポリマーによる表面修飾方法の検討(28年度の達成度100%):反応時間、ポリマー濃度、光照強度等を変化させてin situ MPCポリマー処理を行い、試料表面を非破壊的に観察し、表面修飾方法を確認した。 3. In situ MPCポリマー処理PE表面の耐摩耗特性の検討(28年度の達成度100%):In situ MPCポリマー処理がPEライナーの摩耗に与える影響を検討した。摩擦試験にて潤滑性を評価するとともに、手術後の歩行を再現する股関節シミュレーターを用い、国際標準化機構(ISO) 14242-3に準じ、In situ MPCポリマー処理を施したPEライナーの耐摩耗性を評価した。PEライナーは、国内外で汎用されている架橋PE(CLPE)の製品を用い、コバルトクロム合金製の骨頭と組み合わせて試験を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1. 光反応性MPCポリマーの分子設計および高い反応性を有する分子形態の検討:28年度の分子設計および分子形態に関する検討を継続するとともに、28年度の表面修飾法の検討、耐摩耗特性の検討の結果をフィードバックすることで、耐摩耗特性を効果的に発揮する分子設計および重合条件の最適化を行う。また、今後の実用化に向け治必要な量を獲得するための大量合成系を確立する。 2. 光反応性MPCポリマーによる表面修飾方法の検討:平成28年度の検討を継続するとともに、28年度の耐摩耗特性に関する検討結果をフィードバックすることで、長期間PEライナー表面にとどまり、耐摩耗性効果を発揮するための至適表面修飾法を確立する。In situ MPCポリマー処理においては、高密度のポリマー鎖を形成することで、潤滑特性、親水特性が向上することが予測される。このため、光反応性ポリマーの分子量を制御し、このポリマー溶液の粘性とポリマー濃度を調節することで、高密度のポリマー鎖を形成する条件を確立する。また、生体内で股関節鏡のスリーブ(外筒)を介してMPCポリマー層を構築するための、光照射装置、手術機器の設計・開発を進める。 3. In situ MPCポリマー処理PE表面の耐摩耗特性の検討:本研究では、水和潤滑ゲル層による衝撃吸収性を有するMPCポリマー層を形成することで、繰り返し衝撃に耐えうる機械的強度・支持性を備えたPEライナーを創出することを目指す。この課題を達成するため、ASTM F732に準じた衝撃-摩耗試験(骨頭の衝突・摺動を反復する)を行い、耐久性を評価する以下の検討を行う。また、シミュレーターで一定期間の歩行負荷をかけたものや骨頭の表面を粗くし異常摩耗を再現したものなどのライナーについてin situ MPCポリマー処理を施し、シミュレーター試験を行い、耐摩耗特性を評価する。
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