研究課題/領域番号 |
16H03171
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
安田 隆 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (80270883)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロデバイス / 半導体加工 / 細胞培養 / 細胞解析 |
研究実績の概要 |
半導体加工技術を利用して、シリコン製の円形フレームで支持され、多数の微小孔(直径約3μm)を有する、SiN(窒化シリコン)製の膜状構造(厚さ1μm)を製作した。このSiN多孔膜は細胞の寸法と比べて充分に薄いため、膜を挟むようにしてその両面に異種細胞を共培養すれば、異種細胞間の距離が極めて短くなり、微小孔を通じて細胞間の液性因子の移動や細胞どうしの接着が起こることが期待でき、良好な細胞間コミュニケーションを実現できる。実際に神経細胞とアストロサイトを用いて本共培養技術を構築した。まず、SiN膜面の細胞接着性を向上させるために、アストロサイト培養面にコラーゲンを、神経細胞培養面にラミニンを、順番に修飾する技術を構築した。次に、マウス大脳皮質アストロサイトをSiN膜の片面に播種し接着を待った後に、SiN膜を裏返して他方の面にマウス海馬神経細胞を培養した。そして、アストロサイトのGFAP(Glial fibrillary acidic protein)及び神経細胞のβ-Tubulin IIIを異なる蛍光色素で二重染色することで、それぞれの細胞の形態や線維・突起の伸長を観察し、細胞の接着性等を評価した。 さらに、細胞外電位を多点で同時計測することが可能なデバイスを製作する技術を構築した。まず、SiN膜の片面に64個のAu製の微小電極(一辺約50μm)を8×8のマトリックス状に形成し、各電極からデバイス外周部のボンディングパッドに向けてAu製の電気配線を形成した。次に、配線を避けるように、複数の微小孔(直径12μm)を電極アレイ付近のみに形成した。さらに、電極の表面積を拡大し容量性インピーダンスを低減させるために、電解メッキにより電極表面に白金黒膜を形成した。デバイス製作と電極インピーダンスの評価を繰り返すことで、ばらつきの小さい低インピーダンスの電極を形成する製作条件を導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究実施計画に記載した二つの技術の構築、すなわちSiN多孔膜を挟んだ神経細胞とアストロサイトの共培養技術の構築、及びSiN多孔膜への微小電極アレイ形成による細胞外電位計測デバイス製作技術の構築を達成し、当初目標としていた成果を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
SiN多孔膜を挟んだ神経細胞とアストロサイトの共培養により両細胞間の良好な細胞間コミュニケーションが期待できるが、この効果は微小孔ピッチに大きく依存すると考えられる。微小孔ピッチを小さくすればSiN多孔膜の開孔率が増加するため、細胞間の物質移動の効率は高まると予想される。しかし、開孔率が増加すると細胞がSiN多孔膜に接着する面積が減るため、アストロサイトの接着数が減少し、これにより微小孔アレイを通じて伝達される物質量が減少し、神経細胞の活性が落ちるなどの負の効果が現れる可能性がある。この影響を定量的に評価するために、微小孔ピッチを数μmから数10μmの範囲で様々な値に変更して共培養を行い、神経細胞のシナプスに局在する膜タンパク質を蛍光染色した後に、各微小孔ピッチにおけるシナプス数をカウントし比較する。シナプス数が多いほど神経細胞の活性が高いと判断することができ、これにより最適な微小孔ピッチを導出する。 さらに、SiN多孔膜に64個の微小電極を形成した細胞外電位計測デバイス上にアストロサイトと神経細胞を培養し、神経細胞の細胞外電位を計測する。細胞接着に必要な微小電極の表面処理技術、電位計測に必要なノイズ除去技術や信号増幅技術などのデバイス周辺技術を構築する。なお、平成29年度は微小電極による細胞電位計測の基盤技術を構築することを目標とし、SiN多孔膜を挟んだ共培養を行った上での電位計測実験は難易度が高いため平成30年度以降に実施する。
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