研究課題/領域番号 |
16H03172
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
藤江 裕道 首都大学東京, システムデザイン学部, 教授 (20199300)
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研究分担者 |
中村 憲正 大阪大学, 国際医工情報センター, 招へい教授 (50273719)
鎗光 清道 首都大学東京, システムデザイン研究科, 助教 (90723205)
大家 渓 成蹊大学, 理工学部, 助教 (50549962)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 再生医工学 / ナノバイオ / 軟骨修復 |
研究実績の概要 |
ナノ繊維構造体作成のため,ブタ真皮由来の可溶化コラーゲン溶液を,中性のPBS中に混入させて繊維化させた.この繊維を遠心分離にて濃縮した後,ふたたびエタノール溶液で再分散させ,自然乾燥させてコラーゲンシートを作成した.このコラーゲンシートを培養基盤として用い,ヒト滑膜由来の間葉系幹細胞を含む未分化細胞群を採取して,シート上で培養し,幹細胞/コラーゲン複合体を生成した.この複合体は培養初期には強度と剛性がシート自体のそれらに比して有意に低かったが,培養4週でシートと同等となり,培養8週ではシートに比べ,強度と剛性が有意に増大した.同様の複合体をウサギ滑膜由来の未分化細胞群で生成し,未成熟ウサギの大腿骨荷重部に作成した部分的な全層欠損部に移植した.すると,軟骨欠損部が良好に修復され,12週後において,肉眼所見および組織学的観察結果において,比較対照の欠損群に比べ,正常軟骨に近い形態を示した.また,欠損群に比べ,摩擦係数は差がなかったが,インデンテーション試験では高い剛性を示し,正常軟骨と有意差を示さない程度まで回復した. ナノ繊維構造体のコラーゲン密度を高めるために,上記の繊維化させたコラーゲン溶液にヒト由来の滑膜由来細胞を混入させ,細胞とコラーゲン繊維をまとめて遠心分離しさせ,新たな幹細胞/コラーゲン融合体を生成した.これまでのところ,培養14日目において,幹細胞だけで生成したTECや,上記の幹細胞/コラーゲン複合体に比べ,骨関連遺伝子,軟骨関連遺伝子,タイプIコラーゲンの発現が有意に高いことが分かっている.また,生成された組織内に細胞が高密度で均一に分布していることも分かっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,ナノ周期構造を用いた幹細胞由来組織と,ナノ繊維構造を用いた幹細胞由来組織の,ふたつの修復材料の開発が目標とされている.そのうち,ナノ繊維構造を用いた幹細胞由来組織生成に関しては,当初の目標であったコラーゲンシート状で幹細胞を培養する幹細胞/コラーゲン複合体の生成だけでなく,コラーゲン分散体と細胞を同一場で遠心分離して得られる幹細胞/コラーゲン繊維融合体の生成を行うことができた.大いなる進捗である. 一方で,もうひとつのナノ周期構造を用いた幹細胞由来組織に関しては,平成27年度の仮実験で生成した組織の観察結果が思わしくなく,また,それを用いて修復したウサギ軟骨の形態や力学特性も正常軟骨にはるかに及ばないものであったために,ナノ構造の作成に関して修正検討を行うにとどまった.結果として,従前の計画のようにフェムト秒レーザーでチタンを加工するのではなく,生体適合性に優れたカーボンナノチューブを用い,チューブを縦方向に配列させたナノ構造表面を用いて新たな修復材料を生成することを計画しており,そのための予備実験を行った.
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今後の研究の推進方策 |
ナノ繊維構造を用いた幹細胞由来組織に関して,将来の発展の可能性が見出されるため,この開発,改良に全力をつくす予定である.昨年度の検討で,幹細胞とコラーゲンシートの複合では細胞浸潤度に限界があり,軟組織修復のための肥厚した材料生成は不可能であると考えられる.そこで,昨年度の後半に着手した,幹細胞とコラーゲン分散体溶液を混合させ,遠心分離によって分子間距離の短縮をはかる方法について,細胞密度やコラーゲン分散体のコラーゲン分子量,および遠心分離の強弱の影響について網羅的研究を行う.さらに,融合後の線維形成を促進するために,腱・靭帯生成に関与するとされる遺伝子導入に関しても検討を加える.さらに,軟骨修復に関しては,生成した幹細胞/コラーゲン繊維融合体を修復材料とした動物実験を行い,in vivo系でその組織再生に関する有効性を評価する.
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