我々は発生段階にある子宮内胎児の臓器発生部位(胎生臓器ニッチ)に発生時期に合わせて臓器前駆細胞を注入し、臓器初期発生のプログラムを遂行させることにより各臓器系譜に分化誘導を行う方法(「胎生臓器ニッチ法」)を開発した。一度各臓器系譜に分化が始まった前駆細胞由来組織は、レシピエントに移植することで自己組織化能により発生を継続し成熟した臓器まで分化することが可能となる。本法はげっ歯類において間葉系幹細胞やネフロン前駆細胞より尿生成機能、腎臓内分泌機能を獲得させることが証明されている。そこでヒト応用を目指して大型動物を用いたスケールアップをすることが本申請研究の目的であった。最終年度は、ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞をブタ胎仔腎臓発生ニッチに注入後マーモセットに移植し尿流出を確認する実験を行った。異種移植のため、既報に則りMMF、タクロリムス、ステロイドによる強力な免疫抑制下で移植後マーモセットの維持を行った。本来であれば尿の流出が十分期待できる術後60日まで維持する予定であったが、大量の免疫抑制剤による食思不振及び下痢などの副作用により、1ヶ月で体重が約300グラムから200グラム程度まで急激に低下したため実験中断を余儀なくされた。移植後1ヶ月の段階で、移植片は急性拒絶を免れており、ボウマン腔の拡大や尿細管管腔内の円柱形成など、尿の流出を客観的に示唆する所見が認められたが、移植後の経過が短いことと栄養不良による移植片の発育不全のため十分な尿が得られなかった。このため尿排泄腔内の尿貯留不足があり尿路形成術を断念した。新世界ザルであるマーモセットはヒトで用いられる生物学的製剤などが無効であり従来の免疫抑制剤の増量のみでしか拒絶管理ができないため、本実験にはマーモセットは使用できないことが明らかとなった。現在ヒトと同じ旧世界ザルであるカニクイザルを用いての実験を検討している。
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