チタン板を5 Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に60℃で24時間浸漬し、続いて抗菌イオン(銀(Ag)、銅(Cu)あるいは亜鉛(Zn)イオン)含有水溶液80℃で48時間浸漬した。その後、同チタン板を600℃で1時間加熱処理し、得られた試料の大腸菌に対する抗菌性および可視光を照射したサンプルから発生する活性酸素種(ROS)を調べた。また、試料からリン酸緩衝生理食塩水に溶出した金属イオンの濃度を調べた。その結果、NaOH-AgあるいはCuイオン含有水溶液-加熱処理チタンは抗菌性を示したが、NaOH-Znイオン含有水溶液-加熱処理チタンは抗菌性を示さなかった。また、NaOH-Cuイオン含有水溶液-加熱処理チタンは可視光の照射によって、その抗菌性を著しく向上させた。溶出特性試験において銀および/あるいは銅の溶出が認められたこと、また可視光照射によって試料からヒドロキシルラジカルや過酸化水素といったROSが発生していることが確認されたことから、可視光照射下での試料の抗菌性は、金属元素の溶出および可視光応答型光触媒効果によって発揮されたと考えられる。なお、可視光を照射したNaOH-Cuイオン含有水溶液-加熱処理チタンからは、ヒドロキシルラジカルに加えて炭素に関係するROSの発生が確認されたこから、この炭素に関係するROSも可視光照射による抗菌性の向上に寄与したと推測される。一方、前年度までの研究により、 NaOH-AgあるいはCuイオン含有水溶液-加熱処理チタンは擬似体液中でその表面にアパタイトを形成した。以上より、チタン表面に銀や銅をドープすることによって、可視光下での優れた抗菌性と体液環境下でのアパタイト形成能を併せ示すチタンが得られることが明らかとなった。
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