研究課題
本研究では、粒径50nm以下でなければ血管からがん巣に到達出来ないというデリバリーに制限のある膵臓がんに対し、高分子ミセル型遺伝子キャリア(PMs)を極小化させる方法論を確立し、膵臓がん巣で遺伝子を発現させることによって治療効果を得ることを目的としている。平成28年度は、全身投与を念頭に、血中循環時の安定性付与のためのチオール基を導入したブロック共重合体poly(ethylene glycol)-b-poly(L-lysine)(thiolated), PEG-PLys(SH), について、PEG分子量21k、5k, 2k ならびにPLys重合度70、40程度、チオール基導入率10%からなるシリーズを合成した。これらを用い、大気圧下90℃以上でDNAを熱処理し、ブロック共重合体と混合することで、動的光散乱測定による粒径評価で50nm以下に、透過型電子顕微鏡(TEM)観察からpDNAが球状にパッケージングされることを確認し、本研究のねらいの1段階目を達成した。一方、TEM観察から、球状ミセルは二種類の粒径分布が存在することを認めた。超遠心分析を用いたミセルの分子量測定より、それらは一つのミセルにDNAのセンス鎖とアンチセンス鎖がパッケージングされたpaired packagingと、センス鎖、アンチセンス鎖が別々にパッケージングされたunpaired packagingであることを明らかにした。さらに、その存在分率は、DNAの熱処理時間やポリマーとの混合法によって変化することを認めた。今後、この分率の制御を試みるとともに、遺伝子発現との相関を検証していく。
2: おおむね順調に進展している
DNAを熱処理することにより高分子ミセル内にpDNAを極小化パッケージングさせることに計画通り成功する一方、一つのミセルにDNAのセンス鎖とアンチセンス鎖がパッケージングされたpaired packagingと、センス鎖、アンチセンス鎖が別々にパッケージングされたunpaired packagingであることを認め、それを超遠心分析を通じて定量的に解析出来ることを見出した。これらは当初計画したものであり、順調に進展していると判断している。
当初unpaired packagingが起こりえることは予見したものの、高分子量であるDNAの二本鎖の絡み合いからそれは頻度高く生じないと想定していた。H28年度の検討から実際に数10%含まれることを認めた。paired packaging/unpaired packagingは、遺伝子発現に影響を与えると予想されることから、これらの作り分けに取り組むとともに、実際の遺伝子発現効率を検証する。遺伝子発現は、転写活性、無細胞遺伝子発現系、マイクロインジェクションを用いた細胞での遺伝子発現評価、およびトランスフェクションを通じて行うことを予定している。また、形成された球状ミセルの構造解析を進め、血中滞留性に重要なパラメータとなるPEG密度の定量を行う。
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