研究課題
膵臓がんは、血管密度が乏しく、またがん細胞が繊維性の間質で囲まれているという特徴を有している。この結果、100nm級のナノメディシンは膵臓がん細胞に届かない。難治がんに対する革新的治療法として遺伝子治療に期待が寄せられている。これには遺伝子ベクターが必要であるが、その大きさは100nm程度であるため膵臓がん細胞に送り届けることは出来ていない。近年、粒径50nm以下であれば間質を通過してがん細胞に到達可能であることが報告された。本研究は、DNAを折りたたむ独自の方法論によって膵臓がん細胞に到達する極小化遺伝子ベクターを開発し、膵臓がんに遺伝子治療という新たな治療法を提示することを目的とした。本研究の推進によって、実際に間質を突破し膵臓がん細胞で遺伝子発現する遺伝子ベクターの開発に成功した。一方で、この極小化ベクターは、二重鎖DNAを一本鎖に分け、それぞれをベクター内に格納するという方法論で作製されている。これは、転写には二重らせんDNAが必要であるという一般的な認識に逆行する。このベクターから遺伝子発現に至る可能性として、1)細胞内で遺伝子ベクターが解離し、二本鎖へのハイブリダイゼーションが起こった。2)細胞内で一本鎖をテンプレートに二本鎖が合成された。3)ゲノムに組み込まれた。4)一本鎖から直接転写された。という4つが考えられる。遺伝子発現の時間発展を評価したところ、一本鎖DNAベクターは二本鎖DNAベクターより遺伝子発現が数時間遅れて開始されることが認められた。この時間スケールでは上記の可能性のなかで(3)は低そうと考えられる。他の可能性については今後の課題であるが、本研究は膵臓がんに対する遺伝子治療に道を拓くのみならず、これまで評価することが困難であった1本鎖DNAの研究を可能にするツールとして基礎学術の発展に貢献する価値も創出するものとなった。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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