研究課題/領域番号 |
16H03181
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
木村 剛 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (10393216)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体材料 / バイオ界面 / 免疫学 |
研究実績の概要 |
近年、がん免疫治療や自己免疫疾患治療では、免疫抑制性の制御性T細胞や自己反応性の活性化T細胞を選択的に体内から物理的に除去することや新たに注入することが効果的であると考えられている。例えば、がん免疫療法に対してはTregを、自己免疫疾患に対してはTeffを体内から物理的に除去することが効果的と言える。しかしながら、これらを実現するための体内から有効に選択的な細胞除去デバイスは未だにない。申請者らは、標的細胞を選択的に捕獲・回収する細胞捕集デバイスの開発を目的とし、(1)細胞捕集フィルターの合成、(2)細胞の捕獲・回収、(3)担がんモデル動物の作出と評価法の確立を研究課題の大項目として研究を実施した。フィルター表面に細胞非接着性ポリマーをグラフト重合し、その側鎖に解離性分子で修飾した抗体を導入して、細胞捕集フィルターを得た。モデル細胞を用いて、表面に標的細胞の特異的抗体を固定化することで、選択的な細胞捕獲が可能であった。また、細胞非接着性のポリマーグラフト鎖の導入による非特異的な細胞接着が抑制できた。抗体固定化量の増加に伴う細胞捕獲率の上昇が示された。フィルター表面への抗体固定化の際に解離性分子を導入することで捕獲細胞を回収できた。回収効率は抗体固定化量に依存し、高効率の回収のためには条件の至適化が必要とわかった。以上の結果の一部は、本研究の標的細胞であるTreg細胞でも同様の結果を示した。担がんモデルマウスの作出と、血液中のTreg変化などの一部の動物実験評価系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
標的細胞を選択的に捕獲・回収する細胞捕集デバイスの開発を目的とし、(1)細胞捕集フィルターの合成、(2)細胞の捕獲・回収、(3)担がんモデル動物の作出と評価法の確立について検討を行った。おおむね順調に進行している理由を項目ごとに以下に記す。 (1)材料表面に、細胞非接着性ポリマーをグラフト重合し、その側鎖に解離性分子で修飾した抗体を導入して、細胞捕集フィルター合成を行った。種々のグラフト量・鎖長の表面が得られ、抗体固定化の制御も可能であり、細胞捕集の至適化を検討するための表面調製に関する基盤的な手法を確立できた。(2)モデル細胞を用いて、開発表面での非特異的な細胞接着の抑制と標的細胞の選択的な捕獲が可能であった。また、解離性分子と解離方法の検討を行い、捕獲細胞の解離が可能であった。さらに、本研究課題の標的細胞であるTreg細胞においても、選択的な捕集が可能であり、本年度の目的は概ね達成された。以上の研究の成果について学術論文として発表した。一方で、細胞の捕集実験においては、静置下で行っているが、細胞捕集デバイスとしての応用にあたっては、送液中での細胞の捕獲・回収が必要となる。これについてプレリミナリーな実験では、静置条件と動的条件では細胞の捕獲効率が異なることが明らかとなり、次年度以降では、モデル流路系での細胞捕集に関する詳細な研究が必要と考えられた。(3)担がんモデルマウスの作出と、血液中のTreg変化などの一部の動物実験評価系を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)細胞捕集フィルターの合成、(2)細胞の捕獲・回収、(3)担がんモデル動物の作出と評価法の確立について研究を実施する。詳細は以下に記す。 (1)Treg細胞およびTeff細胞の捕集フィルム・フィルターの合成に関して、昨年度に引続き、細胞非接着性ポリマーをグラフト重合し、グラフト鎖の側鎖に解離性分子を修飾した認識分子を導入する手法にて行う。グラフト鎖の種類・分子量・導入量、認識性分子の種類・導入量、解離性分子をそれぞれの標的細胞に対して至適化する。 (2)Treg細胞およびTeff細胞を用いて、上記(1)で開発した捕集フィルム・フィルターを用いて細胞の選択的捕獲や細胞の解離効率を検討する。捕獲率、回収率100%を目指し、実験結果を(1)にフィードバックし、捕集フィルム・フィルタを至適化する。回収した細胞の生細胞率を評価し、回収細胞の機能としてのTreg細胞の免疫抑制機能およびTeffの増殖機能について、T細胞増殖アッセイにて評価する。昨年度まで、静置下での細胞捕集を検討しているが、流れのある動的条件下での細胞捕集に関する詳細な検討の必要が生じ、本年度からは、モデル流体中での細胞捕集に関する検討を行う。PDMSなどで作製した血液モデル流路を用い、細胞捕集における重要な要素の探索を行い、(1)への細胞捕集フィルム・フィルタの合成にフィードバックする。 (3)健常マウスおよび担がんモデルマウスを用いて、プロトタイプの細胞捕集デバイス性能について検討する。末梢血のTreg、Teffの変化、細胞のポピュレーション、生細胞率や細胞機能等の基礎的な知見を得る。また、体外循環の血液循環条件(サイズ、搭載枚数、血液の循環流速など)と細胞捕集効率についての知見を集積する。さらに、疾患モデルマウスへのTregおよびTeffの注入の有効性を検討する。
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