研究課題/領域番号 |
16H03183
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
朝山 章一郎 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (90315755)
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研究分担者 |
川上 浩良 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (10221897)
根岸 洋一 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (50286978)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬物送達システム / モノイオンコンプレックス / プラスミドDNA / ポリエチレングリコール |
研究実績の概要 |
本研究では、科学的に通常不可能な、生体内の水系の環境におけるDNAの陰イオンと一価の陽イオンとの結合体である「モノイオンコンプレックス(MIC)」の学理を構築し、MICでしか実現し得ない微小空間への環状DNAの高密度な閉じ込めにより、環状DNAの飛躍的な拡散性に基づく生体個体内未踏空間への環状DNAの送達システムを創製する。生体個体内の任意の全細胞での無侵襲的な、環状DNAの発現に基づくタンパク質医薬治療、RNA干渉、ゲノム編集の実現により、難治性疾患治療に対するDDS基盤技術の確立を目指す。 本年度は、MICを形成する一価の陽イオンを有する生体適合性高分子の構造最適化の過程で合成したAPe-Im-E-PEG、すなわち、アミドペンチルイミダゾリウムとポリエチレングリコール(PEG)のスペーサーに生分解性のエステル結合を有するモノカチオン性PEGを用いた環状DNAの送達システムを構築した。APe-Im-E-PEGの経時的な加水分解過程を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより評価し、従来型のエステル結合を有さないAPe-Im-PEGと比較して、加水分解の促進が確認された。さらに、これらモノカチオン性PEGとpDNAとのMICについて、透過型電子顕微鏡による観察に加えて、①DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動、および、②ナノトレッキングによる解析を行った。その結果、①においても超泳動現象が確認され、②においては、電荷比8のMICに対して、電荷比1のMICでは、ほぼ凝集していないことが確認され、低電荷比での動物実験結果の良好性が支持された。そして、APe-Im-E-PEGとpDNAとのMICをマウスの脛骨筋へ投与し、複数回の実験結果を統計的に処理すると、電荷比1の条件で、投与1週間から2週間にかけて遺伝子発現量が向上するという、難治性疾患治療に有望な環状DNA送達に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モノイオンコンプレックス(MIC)の形状観察として、透過型電子顕微鏡(TEM)に加えて、新しい分析法(マイクロチップ電気泳動やナノトレッキング)を取り入れ、MIC形成の学理と動物実験における生体個体内での拡散性の向上との相関を明らかにした点が挙げられる。さらに、アミドペンチルイミダゾリウムとポリエチレングリコール(PEG)のスペーサーに生分解性のエステル結合を有するモノカチオン性PEG(APe-Im-E-PEG)の分子設計の合理性を明らかにした点が挙げられる。すなわち、スペーサー内でのエステル結合の向きを逆(加水分解後のMICにpH応答性が無い)にしたコントロールのモノカチオン性PEGでは、遺伝子発現の向上が認められなかったため、生体内を拡散後に細胞内に取り込まれたMICには、pH応答性が必要であり、細胞質内移行性の重要性も明らかにしたことである。そして、得られたMICは、マウス脛骨筋投与後、1週間から2週間にかけて遺伝子発現を向上させることに成功したため、タンパク質発現量の積分値は大きいと考えられる。従って、APe-Im-E-PEGとpDNAとのMICは、治療用タンパク質やshRNA発現に有望であり、難治性疾患治療の実現に寄与すると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
生体個体内未踏空間へ拡散し送達された環状DNAの発現に基づく難治疾患治療効果の検証を多方面から目指す。すなわち、遺伝性疾患骨格筋へのゲノム編集型MIC送達、膵臓がんへのRNA干渉型MIC送達、脳腫瘍へのタンパク質医薬発現型MIC送達を目指す。そして、難治性疾患治療効果の検証結果をフィ―ドバックし、MICの更なる機能向上を図り、臨床応用を意識して研究展開する。
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