研究課題/領域番号 |
16H03187
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 一夫 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (00564296)
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研究分担者 |
永富 良一 東北大学, 医工学研究科, 教授 (20208028)
中野 徹 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (50451571)
今井 陽介 東北大学, 工学研究科, 特任准教授 (60431524)
出江 紳一 東北大学, 医工学研究科, 教授 (80176239)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経科学 / 磁気センシング / 神経探索 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年に続き神経の電気伝導特性の測定を行った。磁気センシングの基になる神経上の伝導特性は刺激ポイントから35mm以上離れたところから跳躍伝導を検出できた。このことは磁気センシングでも、同じことが言えるので、非常に重要な特性である。ウサギの坐骨神経は長くても、50mm程度までしか、測定できなかった。もっと長い神経を使わないと、跳躍伝導特性の測定は難しいことが判った。そこで、ラットのしっぽの神経を使って測定することとした。その結果、ランビエ絞輪において発生する跳躍伝導の特性は刺激に対して、絶対不応期間は約1ms、相対不応期間は約2msという時間を得た。従って、繰り返し刺激の周波数は1KHz以下でないと連続的な跳躍伝導を誘発できないことが判った。さらに、神経上における跳躍伝導の発生距離について、新たな見解が得られた。神経における跳躍伝導は神経の軸索を取り巻くシュワン細胞毎に発生すると考えられていた。しかし、実験の結果では、1回目の跳躍伝導から2回目の跳躍伝導が誘発される跳躍伝導距離は約50mmであり、跳躍伝導の発生時間の違いは50mmの距離で1msの時間差があった。この事はNa+チャネルの応答特性とも合っており、ランビエ絞輪において、Na+チャネルが応答するのは約25個ほどのシュワン細胞を隔てたランビエ絞輪においてである。研究計画では磁気センサーにより、跳躍伝導を検出することであるが、磁気センサーの感度が現在不足している。跳躍伝導の検出に必要な磁束密度レベル(120pT)を得るため、周囲磁界の影響を除去しながら、感度アップさせるため、特定周波数を検出することで跳躍伝導を検出できないか検討を進める。ロックイン機構の基本要素である刺激周波数を特定できたことは、神経探索のためのロック周波数の特定に繋がるので、1KHz以下のバースト刺激を検出周波数にロックして、行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画では、神経における跳躍伝導特性を明確にすることにあった。このため、神経としては最も長い、ウサギの坐骨神経を使って、跳躍伝導の測定実験を行ったが、最大に長い状況でも50mm程度しか取れず、実験結果から刺激ポイントから最初の跳躍伝導の発生が35mm以上のところから発生していそうであることが判ったため、さらに長い神経での実験が必要であることが判った。様々な検討の末、ラットのしっぽの神経が最も長く、神経の特性測定に有用であることが判った。しかし、しっぽには骨が神経を覆っており、特殊な針電極を作成し、神経を傷つけないように、しっぽの骨に刺し、測定する必要があった。次に磁気センサーによる跳躍伝導の検出実験を行った。しかし、地磁気や周囲磁界の磁気変化を単純に引き算するだけでは検出できないことが判った。さらに、ロックイン機能を採用するとロックインフィルターの特性から応答速度が遅く、跳躍伝導の検出に至らず、神経刺激に伴う、筋肉の動きを検出してしまうことが判った。従って、磁気センサーそのものの感度の高感度化が必要である。さらに、神経を磁気により刺激するため、磁気刺激コイルの作成を行った。発生磁束密度として、1Tを目標とした。しかし、実際には、0.2T程度までしか実現できなかった。この強さでは、神経上の跳躍伝導を誘導することはできなかった。構造としては、円筒状の磁気コアの中心にコイルを巻き、コイルの中心コアの先端から強い磁気パルスが出るようにしたが、電流パルスに対する磁気応答特性が悪く、磁束変化の時間が0.1秒程度かかってしまい、跳躍伝導の誘導に至らなかったと考えている。ランビエ絞輪に存在するNa+チャネルの応答は50μsecのパルスにも応答可能であるため、磁束変化は急峻でなければ、跳躍伝導の誘発には寄与できないと考えている。当初予想し得なかった要因のため、進捗が少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、神経における跳躍伝導の特性が明確になった。従来、跳躍伝導はランビエ絞輪毎にNa+チャネルが次々と応答して、跳躍伝送されていくとされることが一般的であった。実験結果から、跳躍伝導は50mm程度の距離をおいて、発生していることが判った。従って、磁気検出においても、この距離をおいたところでないと検出できないと推測される。磁気センサーを使った跳躍伝導のセンシングに対しても、刺激ポイントから50mmほど距離を置いた点において、検出が可能か検討する。また、跳躍伝導が50mmほどの距離をおいて発生する場合、その間に存在するシュワン細胞、ランビエ絞輪でのNa+チャネルの応答はどのようになっているか疑問が生じる。このため、神経周囲での電位変化が検出できることから、この間の電位変化、静電変化等を詳細に検出し、跳躍伝導特性をさらに詳細に検証したい。シュワン細胞の性質については未解明である。 磁気センサーに関しては、今年度、超高感度磁気センサーが発表された。このセンサーの感度性能について、数十pTレベルの磁束検出が可能であると、公表されているので、神経探索センサーとしての利用が可能か検討する。また、本年度の検討結果から、地磁気や周囲磁界の影響を一端、遮断して、跳躍伝導の磁気センシングを実施することが有効ではないかと考えられるので、ラットを収容可能なサイズの磁気シールドを作成して、実験を行うことを計画している。 磁気刺激に関しては、磁気コイルのQを高くして、磁束応答時間の短縮を行う必要があるので、空心もしくはフェライトコア棒にコイルを巻き、シンプルな構造の磁気刺激コイルを作成して、神経周囲に渦電流の発生を励起できるようにしていきたいと考えている。 来期は最終年度であるので、これらの成果を踏まえて、磁気センサーと磁気刺激を組み合わせた神経探索システムの開発を目指していく予定である。
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