研究課題/領域番号 |
16H03191
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中島 義和 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (40343256)
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研究分担者 |
斎藤 季 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任助教 (00646466)
中冨 浩文 東京大学, 医学部附属病院, 助手 (10420209)
小山 博史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (30194640)
金 太一 東京大学, 医学部附属病院, その他 (90447392)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 臓器変形トラッキング / 手術支援 / 形状計測 / 非接触計測 / ブレインシフト |
研究実績の概要 |
高精度な手術ナビゲーションを実現するためには,術中における臓器移動の補正に加え,脳外科手術中に生じるブレインシフト(脳の変形)や外科手術中に生じる肝臓など軟組織の変形を補正することが求められる.手術ナビゲーションシステムでは,術中における患部の移動量を補正するため,随時,患部の位置を計測し更新する.現在,臨床に導入されている手術ナビゲーションシステムでは,計測方式に関わらず,位置計測用のマーカを臓器の対象部位に固定・留置する必要がある.臓器へのマーカの固定は,皮膚や筋肉組織の切開などの外科的な侵襲を伴うだけでなく,時にマーカが術野の一部を覆ってしまい手術行為を妨げる要因になり得る.また,マーカを固定する方法は,骨などの固い組織に対しては十分であるが,脳や肝臓など柔らかく変形を生じる組織に対しては,固定が難しく,さらに変形量の捕捉に十分な空間分解能を得るために多くのマーカを必要とすることから,適しているとは言い難い.これら軟組織に対しては,非接触計測が有効である. 我々は,軟組織表面を対象とし,非接触でかつマーカを使わない移動量ならびに変形量の計測手法を確立した.まず,臓器表面をスキャンし3次元形状を得る.同時に,texture(模様)を取得し,textured形状を生成する.Textureは,変形量計算における対応点探索に利用して変形量推定の安定化ならびに高精度化を図る.脳,皮膚ならびに腹腔内臓器の多くはその表面にtextureを有している.形状に加えてtextureを利用することで,安定にかつ高精度に移動量と変形量を推定できる.本手法は,軟組織を対象とした移動・変形計測を実現する手法であり,軟組織手術ナビゲーションを実用化に導くものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Textured形状計測について,レーザ光デバイスと高速カメラによるステレオ位相差形状計測と,多焦点計測による形状計測について,生体計測の実現を目指して改良を加えた.レーザ光デバイスと高速カメラによるステレオ形状計測では,位相差計測法を中心に動物実験ならびに全臨床試験に向けて実装を進め,性能向上を図った. まず,計測デバイスについて,当研究チームが開発した既存のプロトタイプからさらに計測精度を高めるため,計測デバイスを再設計,試作した.試作機は,3Dプリンタを用いてフレームを造形した.また,多焦点画像による計測デバイスにおいても,小型リニアガイドの導入やモータ振動の影響を低減するなどの改良を推し進め,前年度よりも高精度で高速動作に耐えられるようデバイスを改良した. 3次元再構成計算においては,高速化のため,高性能並列演算を可能にする技術であるCUDAを利用するなどプログラムの並列処理化を進め,GPGPUを使用できる並列計算システムを構築した.さらに,その上に臓器形状再構成ソフトウェアを実装し,処理の高速化を図った.また,独自の形状再構成の最適化アルゴリズムを提案し,形状計測誤差を大幅に低減させた. 手術プロジェクションマッピング(PM)システムへの実装に向けては,脳や肝臓の臓器モデルを用いて移動,および変形の追跡精度を検証した.脳神経外科手術を主たるターゲットとして研究開発を進めた.術中の脳圧変化や組織切開等により生じるブレインシフトと呼ばれる脳変形に対して,誤差を解析し,従来の手法における誤差要因を特定した.また,提案手法が,それらの誤差を大幅に低減したことを確認した. また,当該技術を国際会議等で発表し,ディスカッションを通して学術的フィードバックを得るとともに,実用化に向けて特許を出願した.
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今後の研究の推進方策 |
Textured形状計測,臓器移動・変形追跡を術具位置姿勢誘導のための立体PMシステムに実装する.光学マーカレスで且つ誘導誤差1 mm,1°以下を目指し,パラメータの最適化および手法の改良を行う.パラメータの最適化は,特に,計測レーザパターンを照射するレーザプロジェクタの光学パラメータの推定精度を向上させることを目的とする.また,臓器表面におけるレーザ光のボケ(スポット径の増大)の影響を画像処理により補正することで,光学計測の精度をさらに高めることを試みる.形状再構成では,サブサンプリングと信号補間最尤推定により位相差シフト法における位相計算精度を高める.レーザ光計測の高精度化と,形状再構成アルゴリズムの高精度化,ならびにそれらによる計算量の増大に対応するための並列計算システムの実装をさらに推し進める. システム実装においては,前年度までに実施した経時変化する術中(2.5次元-2.5次元)の空間統合のみならず,術前手術計画空間と術中術野空間(3次元-2.5次元)の空間統合を実現する手法の提案,実装および検証を行う.この実装により,術前にCT画像やMR画像など術前画像上で行った解析結果や手術計画などを,術野で直接,直観的に確認できるようになる.このため,3次元画像(術前画像)上ならびに2.5次元画像(術中画像)上での画像特徴量計算と,それらの対応計算について,手法の提案,アルゴリズムの実装,ならびに精度・安定性・計算速度のバランスをとったチューニングを実施する. さらに,動物実験を行い,本研究の性能を検証するとともに,改良点をフィードバックしてさらなる精度向上,安定化を行う.また,臨床に向けた研究的実験を行い,臨床での可能性を確かめる.
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