研究課題
本申請研究では、ハイブリナノ粒子、バイオナノカプセル、高精度放射線治療の専門的知識を融合させ、それらを階層的に組み合わせることで、治療が不可能とされてきた膵臓がんへの強力な治療スキームとすることにある。H29年度は以下の4項目について成果が出ている。その研究計画に対する進展度はおおむね良好であり、最終年度には、すべての実験項目を一つに統合して、総合的に実験計画を遂行する計画である。【項目A】 放射線照射によるハイブリナノ粒子の応答性:過酸化チタン表面には過酸化水素分子が科学的に配位し、二酸化チタンとは異なる表面分子構造を有していることが明らかとなった。そして、この分子構造より、過酸化水素が遊離することで、ナノ粒子近傍へ過酸化水素を徐放する作用があると推測できた。【項目B】 in vitroでの放射線照射とナノ粒子の併用によるメカノバイオロジー解析:昨年度に引き続き、ナノ粒子より徐放される過酸化水素ががん細胞に対して効果的に作用し、がん細胞の壊死に効果がある事を見出した。【項目C】 in vivoでの放射線照射とナノ粒子の併用による治療効果の最適化:がん細胞を担がんしたヌードマウスにおいて、ナノ粒子の粒形を変化させた過酸化チタン粒子を用いた場合、その粒形の効果で腫瘍への到達程度が異なることを明らかにした。【項目D】 がん細胞標的化に向けたナノ粒子表面への抗体修飾技術の開発:抗体を提示したBNCにて過酸化チタンを包含した場合、腫瘍得意的にナノ粒子を目的組織に到達させることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
項目Aに関して詳細を報告する:ポリアクリル酸修飾過酸化チタンナノ粒子(PAA-TiOx NPs)と従来の放射線治療を組み合わせることで放射線増感効果の比較を検討した。PAA-TiOx NPsでは、過酸化水素の放出挙動が明らかに観察され、過酸化水素がナノ粒子に吸着している状況ではその表面化学構造がESR分析より異なっていることが示唆された。この結果は、過酸化水素と二酸化チタンを混合することで着色(黄色)する現象を指示している。この結果より、我々の構築した過酸化チタンの分子構造をおおよそ特定できたものと判断した。そして、この粒子からの過酸化水素の徐放が抗腫瘍効果の要因であると推測した。その理由として、放射線低感受性の主な原因として腫瘍内の酸素欠乏状態が挙げられる。これに対し、PAA-TiOx NPsは腫瘍細胞内に取り込まれた後、細胞内で過酸化水素を放出することで細胞内過酸化水素濃度を上昇させ、酸素欠乏を緩和して、結果的に抗腫瘍効果を誘導しており、我々の推測とおおよその現象一致が確認できたためである。項目Dに関して詳細を報告する:このナノ粒子単体での使用に加え、キャリアへの封入による送達も検討した。このDDSキャリアとして、B型肝炎ウイルス由来のバイオナノカプセルを使用した。本研究では、過酸化チタンナノ粒子封入バイオナノカプセルとX線の併用による抗腫瘍効果をin vitroとin vivoで評価した。その結果、B型肝炎ウイルス由来のバイオナノカプセルを使用した場合、腫瘍への送達効率が向上し、高い抗腫瘍効果が確認できた。
ここまで計画に従いおおむね順調に実験計画が進行している。H30年度は最終年度であり、計画に基づき、すべての研究計画を「項目C:in vitroでの放射線照射とナノ粒子の併用によるメカノバイオロジー解析」に集約して行う。そして、BNCとハイブリナノ粒子を組み合わせたスーパーハイブリ・ナノ粒子を構築することで静脈注射からの導入を目指す。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 図書 (1件)
Journal of Bioscience and Bioengineering
巻: 17 ページ: 30749-30751
10.1016/j.jbiosc.2018.01.012.