研究課題/領域番号 |
16H03202
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田口 徹 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 客員准教授 (90464156)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 筋膜 / 痛み / 筋・筋膜性疼痛 / 侵害受容 / 理学療法 / 線維筋痛症 / ストレッチ / 筋 |
研究実績の概要 |
肩こりや腰痛から運動後の筋肉痛(遅発性筋痛)に至るまで、筋や筋膜に起因する痛み(筋・筋膜性疼痛)は超高齢化やストレスフルな現代において、罹患者が多いだけでなく、莫大な医療経済的負担を生じており、速やかに解決されるべき重要課題である。 本年度は遅発性筋痛モデル動物を用い、遅発性筋痛の発症強度を規定する運動負荷のパラメータとその機械的因子を同定し、論文発表した。また、遅発性筋痛では、末梢侵害受容器のうち、筋C線維のみならず有髄のAδ線維の機械感受性が亢進しており、これら細径侵害受容器終末に発現する酸感受性イオンチャネル(ASIC3)が痛覚過敏に関与する重要な分子機構であることを明らかにした。 また、筋を収縮させながら伸張する伸張性収縮によって生じる筋・筋膜損傷モデルを用い、損傷筋に軽いストレッチ刺激を与えると筋組織の形態的・機能的回復が早まることを実証した。さらにこのストレッチによる機械刺激で再生筋線維の出現が有意に早まることを見出した。これらの知見は現在、理学療法の臨床現場で経験主義的に行われているストレッチの有効性を裏付ける科学的根拠を細胞・分子レベルで明らかにした成果である。 広範囲の筋・筋膜の痛みを特徴とする線維筋痛症についても、モデル動物を用いてその末梢神経・脊髄機構の解明を試みた。痛覚過敏を呈した筋では、侵害受容器を感作し機械感作に関わるグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)とそのファミリーメンバーであるPersephinのmRNAが有意に増加することを見出した。また、痛みの受容・伝達を担う脊髄後角ニューロンの応答性を調べたところ、その機械感受性が顕著に亢進していることを突き止めた。これらの末梢・脊髄機構は線維筋痛症の病態に関わる重要な知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遅発性筋痛の発症に関わる筋収縮パラメータやその機械的因子の同定に関しては、平成28年度に論文化できた。H28年度に得られた遅発性筋痛の神経・分子機構に関する成果は平成29年度中に論文化する予定である。また、筋損傷に対するストレッチの効果とその細胞分子機構の解明に関する成果も平成29年度中に論文化する予定である。線維筋痛症の末梢神経・脊髄機構に関しては、平成29年度に引き続き実験を行い、平成30年度中の論文化を目指す。これまでのところ、概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は遅発性筋痛の末梢神経機構に筋Aδ線維が関与し、細径線維受容器終末に発現するASIC3チャネルが痛覚過敏に関与をすることを明らかにした。本年度はまずこれを論文化する。また、伸張性収縮によって生じる筋・筋膜損傷に対し、軽いストレッチ刺激を与えると筋組織の形態的・生理的回復が早まり、これに早期の再生筋線維の発現が関わることを明らかにした。この知見も今年度内の論文化を目指す。また、遅発性筋痛モデルや線維筋痛症モデルを用い、筋に加え筋膜で発現増大する疼痛関連遺伝子を分子生物学実験より明らかにし、筋・筋膜性疼痛の物質的基盤を明らかにする。特に、末梢侵害受容器の感作に関わる神経栄養因子に重点をおいて調べる。線維筋痛症については、脊髄ミクログリアの活性化が痛覚過敏の病態に関わることをすでに明らかにしているが、このグリアネットワーク内で痛みの受容・伝達を担う脊髄後角ニューロンの応答性変化がわかっていない。本年度はここに重点を置き、後角ニューロンへの興奮性・抑制性入力の電気生理学的解析を進める。また、筋膜性疼痛の末梢神経機構解明のため、上述の実験モデルを用い、バイタルサインを保持したin vivoの状態で、ラット下腿筋膜に分布する侵害受容器を同定し、その侵害刺激感受性を明らかにする。また、光遺伝学による痛覚過敏機構の解明については、本年度は遺伝子改変動物の受け入れを始めていく。
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