研究課題/領域番号 |
16H03207
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研究機関 | 新潟医療福祉大学 |
研究代表者 |
大西 秀明 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (90339953)
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研究分担者 |
田巻 弘之 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (40253926)
大鶴 直史 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 講師 (50586542)
佐藤 大輔 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 教授 (60544393)
山代 幸哉 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 准教授 (20570782)
桐本 光 広島大学, 医歯薬保健学研究科, 教授 (40406260)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 運動学習 / 感覚学習 / 脳磁図 / 経頭蓋磁気刺激 / 皮質内抑制 / 体性感覚誘発磁界 / 運動後抑制 |
研究実績の概要 |
他動運動や機械的触覚刺激が皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響を調査し,5つの主要な結果を得た.(1)反復的他動運動後に観察される一次運動野(M1)の興奮性低下(PED)は,運動範囲(関節角度)に影響されないことが明らかになった(Neuroscience letter, 2017).(2)他動運動後のPEDは他動運動頻度に影響され,5Hzの他動運動後にはPEDが15分以上持続するが,0.5Hzや1Hz頻度の他動運動後にはPEDが2分程度で回復することと,3Hz頻度の他動運動後にはPEDが認められないことが明らかになった.加えて,他動運動後のPED期間中には脊髄興奮性は変化していないことと,皮質内短間隔皮質内抑制(SICI)が強くなることが明らかになった(Neuroscience, 2017).(3)他動運動によって引き起こされるPEDは,運動継続時間や運動回数によっても変動し,240回程度の他動運動ではPEDが引き起こされないことや,運動と休息を組み合わせたDuty cycleの有無はPEDに影響を及ぼさないこと,他動運動に注意を向けるとM1興奮性が増大することが明らかになった(投稿準備中).(4)機械的触覚刺激が皮質脊髄路興奮性と運動遂行能に及ぼす影響を調査した結果,単純な触覚刺激を20分間与えるとM1興奮性が減弱し,指腹を擦るような複雑な触覚刺激を与えるとM1興奮性が増大することとを明らかにした(Neural Plasticity, 2018).さらに,M1興奮性増大に伴い巧緻動作遂行時間が短縮することが明らかになった(Under review).(5)機械的触覚刺激が二点識別覚に及ぼす影響も調査し,能動的触覚刺激を10分間与えた後二点識別覚の閾値が低下するが,単純な触覚刺激を行った後には二点識別覚の閾値は変化しないことも明らかになった(投稿準備中).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他動運動や機械的触覚刺激によってM1興奮性が増減することと,その増減にはM1内の抑制回路の振る舞いが影響していることや,刺激の与え方によってその振る舞いが変動することを明らかにした.さらに,その増減は運動学習に影響を及ぼしている可能性を明らかにした.初年度特別注文で作成した二点式別覚を評価する装置を利用して感覚学習過程の皮質内抑制回路の振る舞いについても研究し,複数種類の機械的触覚刺激が二点識別覚閾値に影響を与えていることを明らかにした. これらに加えて,一次体性感覚野内の抑制回路を評価するための指標の一つである二連発電気刺激による体性感覚誘発磁界(SEF)の皮質内抑制反応(PPD)の個人間のバラツキおよび個人内のバラツキや,そのバラツキに影響を及ぼす要因についても調査した.その結果,3種類のSEF成分(N20m,P35m,P60m)のPPDには,脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子多型の影響は認められない可能性が高いことと,末梢神経刺激後に誘発される事象関連脱同期の大きさとP60mのPPDの大きさに関係性があること,P35mのPPDの再現性は高いがN20mやP60mのPPDの再現性は低いことを明らかにした(2018年度業績.Brain Topography, 2018). さらに,PPD実験と同様の被験者を対象にして,一次運動野(M1)抑制回路を評価する指標である,短潜時求心性抑制(SAI)や長潜時求心性抑制(LAI),短間隔皮質内抑制(SICI),長間隔皮質内抑制(LICI)を計測し,各評価指標による運動誘発電位の減弱率(抑制度合)を解析し,SAI,LAI,SICI,LICIの抑制度合いの個人間のバラツキ度合いとその関連性や個人内の再現性を確認している(投稿準備中).
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今後の研究の推進方策 |
S1およびM1内抑制回路の各種評価指標のバラツキ度合いと,(1)BDNF遺伝子多型との関連性,(2)磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)にて計測したS1内およびM1内のGABA(抑制性神経伝達物質)濃度やグルタミン酸(興奮性神経物質)濃度との関係性,(3)末梢神経刺激によって誘発されるSEF波形のアルファ帯域,ベータ帯域,ガンマ帯域の事象関連脱同期(同期)との関連性を調査する.さらに,これら評価指標の個人間の差と,運動学習や感覚学習能との関連性についても調査する.加えて,他動運動後に引き起こされるPEDの大きさと上記の各種抑制機能評価指標との関係性や,PEDが運動学習や感覚学習に及ぼす影響についても明らかにする. BDNFを制御する遺伝子は,66番目のアミノ酸のVal(バリン)がMet(メチオニン)に置き換わっている場合があり,Val/Val,Val/Met,Met/Metの3タイプがある.これらBDNF遺伝子多型によって脳の構造や機能に差があることがわかっているため,PPD実験による皮質内抑制機能の振る舞いとBDNF遺伝子多型との関係性を解析した.しかし,Val/ValタイプやMet/Metタイプの被験者が極端に少なかったため,本年度はさらにBDNF遺伝子多型解析の被験者を増やし,Val/ValタイプやMet/Metタイプの被験者数を増やして,PPDとBDNF遺伝子多型との関係性を解析する.さらに,SAIやLAI,SICI,LICIとBDNF遺伝子多型との関連性を解析する.MRSを計測するための3テスラMRI装置は今年4月に所属機関に設置されたため,6月から計測を開始する.今年度はM1とS1に焦点を当ててGABA濃度とグルタミン酸濃度の個人差と各種評価指標との関係性を解明する.
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