本研究は,コンピュータグラフィックス(CG)を用いた複合現実感技術や,接触感覚や反力等の力触覚提示技術を応用し,運動錯覚を想起させることで脳に刺激を与え,脳の可塑性を誘発する効果的な感覚運動統合リハビリテーションシステムの開発を目的としている.本年度は,視触覚ボール回しシステムを用いた場合の運動錯覚誘発の評価,および上肢を対象とした運動触覚ミラーセラピーシステムの改良を行った. 視触覚同時提示ボール回しシステムは,上部のモニタにボールを回している動画を提示すると共に,下部には実際にボールを配置し,動画と同期させてモータ制御によりボールを回転させ.被験者がモニタの下に手を挿入し,下部のボールを軽く握ることで,自分でボールを回している様な錯覚を感じさせる.本年度は,脳波による錯覚の評価を行った. 上部のボールの映像と下部のボールの回転を同期させた運動錯覚生起条件と,非同期の運動錯覚非生起条件について,α波,β波,γ波の活動を,パワースペクトラム密度(PSD)を用いて評価した.α波は,頭頂部から後頭部にかけてのPSDが大きく減少した.β波は,後頭部のPSDが大きく活動しているほか,頭頂部から後頭部にかけて,α波同様PSDの減少が見られた.γ波は,頭頂部左のC3電極においてPSDが減少したほか,左後頭部および左前頭部にPSDの増加を確認した.以上より,α波の解析から運動錯覚によって運動野の活動が活発になり,同時にγ波の解析から,運動野と視覚野が関連して活動したことがわかった. 運動錯覚ミラーセラピーシステムは,先行開発したシステムを改良し,手関節の外転/内転動作に対して触覚提示を行うミラーシステムを開発し,触覚提示の有無が運動主体感の誘発にどの程度影響するのかを評価した.
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