最終年度であるH31年度は,前年度までの実験の被験者に24名追加するとともに,研究成果の取りまとめを行った.運動を企図した方向に対し視覚的に誤差を付与することが,運動学習に及ぼす影響を調査する実験には,健康な男性が計43名が被験者として参加した.被験者は運動学習課題を能動的に行うActiveグループ,受動的に行うPassiveグループ,運動を企図した方向とは無関係に正解動作を受動的に経験するPassive Mグループ(PM),運動を企図した方向に受動的に運動を経験するPassive MEグループ(PME)の4つに分けられた.まずすべての被験者はマニピュランダムの操作に慣れるためのTraining課題を行い,次に身体図式の基準を測定するためのTest課題を行った.その後,それぞれのグループに応じた条件で視覚運動回転変換を学習した.そして最後にもう一度,すべての被験者にTest 課題を行ってもらい,学習条件の違いによってアフターエフェクトにどれだけの変化が生じるかについて調査した.実験の結果,運動学習の前後で,グループAでは-19度程度,グループPでは-8度程度,グループPMでは-5度程度,グループPMEでは-12度程度のアフターエフェクトの変化がそれぞれ見られた.これらのアフターエフェクトの変化について統計分析を行うため,4グループ間で一元配置分散分析を行った.分析の結果,グループ間に有意な主効果が見られた(p<0.001).そこで,さらに多重比較を行った結果,グループAとすべてのグループ間および,グループPMとグループPMEに間(p<0.05)に統計的な有意差が確認された.この結果より,能動的な運動学習は明らかに受動的運動学習より優れるが,受動的運動学習であっても,予測誤差を認知することは内部モデルを更新するのに有効である可能性が示唆された.
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