細胞内カルシウムイオン(Ca2+濃度,[Ca2+]i)は非常に低い濃度で維持されており,その変化によって細胞内の様々な細胞応答が制御されている.その一つとして,骨格筋ではタンパク質合成を活性化することが知られている.我々は細胞外からの流入により伸張性収縮(ECC)では[Ca2+]iの増加がともなうことを報告した.しかしながら,ECCによって増加したCa2+およびタンパク質合成経路の活性化の関連性は不明である.そこで,ECC後の損傷再生過程の安静状態の筋における筋線維のCa2+ダイナミクス(空間・時間的な濃度変化),およびタンパク質合成因子の活性化が見られるという仮説を検証した. 実験には,Wistar系雄性ラットの前脛骨筋(TA)に電気刺激によるECCを負荷し,麻酔下において生体内環境を維持したまま1,3,7日後のTAを露出させ,Ca2+蛍光指示薬(Fura-2)を負荷し,Ca2+ダイナミクスを数時間観察した.その後,筋を摘出しウエスタンブロッティングによりmTOR系の定量を行った. ECC後,[Ca2+]iが高くその変動も大きい1日後ではmTOR,p70S6K,S6,eIF4Gのリン酸化の亢進が見られた.また,[Ca2+]iが低く変動も小さい3日後ではmTOR,eIF4E,eIF4Gのリン酸化,[Ca2+]iが再度上昇し変動は小さい7日後ではmTORとeIF4Eのリン酸化が亢進した.これらの変化にAktのリン酸化は伴わなかった. ECC後の損傷再生過程において筋細胞内Ca2+ダイナミクスが見られ,またmTOR系の一部活性化を介したタンパク質合成の亢進が示唆された.
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