本研究の目的は、これまでに確立してきた神経生理的手法、体温・循環調節系手法を用いて、暑熱環境下における持久性運動能力の低下のメカニズムを明らかにし、新たな熱中症予防策を提案することであった。特に、最終年度はヒトを用いた基礎・応用実験において、高温環境が持久性運動中の脳および筋肉の循環動態に及ぼす影響を検討するため、これまでの体温調節系の指標に加え、課題となっていた測定項目に焦点をあて実験した結果、大腿部皮膚血流量、中大脳動脈血流速度、大腿部筋酸素飽和度の同時測定に成功した。特に、高温環境では体温調節のため、皮膚に血流が分配されることにより脳血流が低下するが、筋血流には影響を及ぼさないことが示唆された。これらの独創的な実験手法を同時に用いることができるようになったことは、暑熱環境下における運動能力低下に関する生理的要因を多方面から分析することができるため高く評価できる。また、身体外部および内部冷却効果が持久性運動能力、間欠的運動能力、脳認知機能に及ぼす影響について検討することができ、研究成果を国内外で学会発表すると共に、論文として出版することができた。さらに、最終年度であったため、これらの研究成果を学会におけるシンポジウムや熱中症セミナー等の活動においても研究資料やガイドブックを用いてわかりやすく公表することで、エビデンスベースの実践的な暑さ対策として広く提案することができた。研究期間におけるこれらの基礎・応用実験に関する体系的な研究の実施は、暑熱環境下での安全なスポーツ活動の実施とアスリートの競技力向上に寄与しうる内容に繋がるものと考えられる。
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