研究課題/領域番号 |
16H03250
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
野田 隆政 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 病院, 医長 (50446572)
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研究分担者 |
曽雌 崇弘 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 司法精神医学研究部, 研究員 (00381434)
岡田 幸之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (40282769)
安藤 久美子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 司法精神医学研究部, 室長 (40510384)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヘルスプロモーション |
研究実績の概要 |
言語処理実験における二つの研究結果を英語論文として報告した。一つ目は、意味処理と注意の研究を行った。先行研究では衝動性と言語処理において読解力などの言語処理能力が高いほど、衝動性の抑制機能が効率的に働き、行動表出を抑えられることが示唆されてきた。本研究では意味判断を意識して行われるかという点に注目し、脳活動への反映を調査した。意識が直接意味処理に向けられると、言語処理が促進され、脳活動効果(意味処理のN400の事象関連電位成分)が持続して出現した。また、二つ目の研究では文を用いた言語予測をテーマに、言語処理にどのように意識的な実行系機能が関わるかを調査した。言語処理は意識せずともデフォルトの言語処理パターンが機能し、十分な言語情報がなくても先読み処理が働くことが示された。意識や予測方略が強く働く言語処理を促進することが、脳活動を効果的に変化させ、認知や行動特性にポジティブな影響を与えることが想定できた。 次いで、健常被験者と気分障害患者において、行動抑制課題、言語課題、リズム課題などを用いて、衝動性、ならびに反応抑制機能に関わる、脳波を用いた神経生理学的実験を行った。機械学習の手法を用いて、衝動性高低群の分類分析を行ったところ、反応抑制エラー後のエラー回復過程に関わる早期電位が分類に有効に働き、エラー後のフィードバック処理が有効であることが分かった。さらに、言語とリズム嗜好性と抑制活動のマルチ課題の結果から、速いリズムへの嗜好性が、高い衝動性と関連していることが分かった。また、気分障害患者群では、行動抑制に関わる後期の陰性もしくは陽性脳活動が臨床における心理学的分類と一致している所見が示唆された。今後の衝動性ニューロフィードバック研究に向けて、後期の意識的な脳活動に焦点を当てつつ、内的リズムをコントロールし、衝動性をコントロールするための有意義な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語処理能力の高さが衝動性を効率的に抑制できる可能性が高く、意味処理の脳活動成分(N400)が持続していることを示した。また、言語処理において不十分な言語情報に対する予測処理が機能することを示した。こうした意味処理、予測処理能力の向上が衝動性の抑制において効果的に機能する可能性が示唆され、ニューロフィードバックに用いる脳活動成分の候補となることが分かった。また、気分障害患者と健常被験者における衝動性の高低群を機械学習の手法を用いて分類し、エラー後のフィードバック処理が有効であることを示した。脳波により得られた脳活動成分は今後のさらなる発展を期待させる結果であった。さらに、衝動性が高い被験者は速いリズムを好むことが示唆されており、この点もニューロフィードバックによって介入し介入効果の指標となり得ることが分かった。最後に、臨床における患者の心理特性によって行動抑制後期において特徴的な脳活動を示すことが分かったことは、前述したニューロフィードバックに用いる脳活動成分の候補の一つとなり、さらなる研究の足がかりになると考えられた。 今年度は衝動性の評価およびニューロフィードバック手法の確立のために、様々な実験を行った。結果、実験課題の候補を絞り込むことができ、標的となる脳活動を同定するという本研究の根幹となる研究成果が達成できた。様々な予備実験の繰り返しにより、実験手法の最適化、さらには得られた実験結果の解釈に至るまでの成果をあげることができたのは、概ね計画通りと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究から、うつ病患者群では抑制機能が低下しており、それが自殺などの衝動的な行動化につながること、治療によって背側前頭前野が効率性を増し、より少ない脳活動で抑制機能を働かせることや、抑制前の感覚処理やその後の運動反応では、ネガティブな情動バイアスに影響を受けることが知られている。また、衝動性と言語処理において読解力などの言語処理能力が高いほど、衝動性の抑制機能が効率的に働き、行動表出を抑えられることが示唆されてきた。 これらの知見に今年度の研究結果を加味して、次年度以降は固定した実験条件で被験者数を増やして衝動性のアセスメント手法の確立を目指す。また、衝動性のセルフコントロールを目的にしたニューロフィードバック手法の確立については、次年度においてsimlinkソフトなどを用いて脳機能計測信号をオンライン処理し、それをフィードバックするプログラム作成に着手する。そうした中で、気分障害患者群の反応抑制実験データをまとめ、どのような精神症状にフィードバック手法の焦点を当てるかを検討し、予備的なニューロフィードバック手法を考案することで実用化の足固めをする予定である。なお、親子群については、被験者数確保の観点から、予備実験段階での計測はせず、アセスメント手法を確立した後に計測することで衝動性の遺伝的な背景について検討することに変更した。
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