研究課題/領域番号 |
16H03258
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池田 真一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (50534898)
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研究分担者 |
武政 徹 筑波大学, 体育系, 教授 (50236501)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 骨格筋の質 / 細胞外マトリックス / ラミニン |
研究実績の概要 |
本年度は骨格筋でダイナミックなリモデリングが引き起こされる筋損傷モデルを用いた検討を行った。筋損傷の方法としてカーディオトキシンを使用し、筋損傷7日、14日、21日、28日後のタイムコースを設け、それぞれの筋凍結切片を蛍光免疫染色で観察したところ7日後のサンプルでのみ細胞膜上でラミニンbeta-3の発現が確認された。このことからラミニンbeta-3は損傷初期に発現が上昇することが明らかとなった。筋損傷時のラミニンbeta-3の詳細な発現動態を確認するために短いタイムコース(1, 3, 6, 12, 24時間)を設定し解析を行ったところ、損傷12時間後よりラミニンbeta-3は上昇し、24時間後も上昇したままであった。さらに、ラミニンbeta-3の下流で制御されているp44/42(ERK)やAktの発現も確認したところAktはラミニンbeta-3と同様の発現パターンを示しており、骨格筋におけるラミニンbeta-3 Akt経路が存在することが示唆された。この経路の詳細な分子メカニズムを検討するために、ラミニンbeta-3中和抗体をカーディオトキシンと共に筋中に投与したところ、中和抗体濃度依存的にラミニンbeta-3の発現が上昇した。下流にあるAktの発現量はラミニンbeta-3と同様に濃度依存的に発現量が上昇した。Aktの下流にあるタンパク質合成に関与するシグナルの発現量には影響を及ぼさなかったものの、タンパク質分解に関与するFoxoタンパク質の発現量は中和抗体濃度依存的に上昇した。以上の結果から、筋損傷時に骨格筋で発現するラミニンbeta-3は、損傷初期(12時間後)より発現が上昇し、それに伴って下流の分子であるAkt-Foxo経路を制御していることが明らかとなったため、タンパク質分解経路を制御する上流因子である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上皮組織特異的なラミニンの発現が筋肥大時・筋再生時に発現誘導されること、その受容体と考えられる分子並びにその下流のシグナル経路は見出せたものの、それらの分子・カスケードが実際に筋肥大や筋再生にどれだけ関与するのかといった機能解析まで行えていない。コマーシャルベースの抗体がほとんど存在せず、しっかりとワークする抗体が1つのみであったがそのメーカーが抗体の作成を見合わせていることが原因である。現在他社の抗体を試すと同時に抗体作成及び代替法の模索を行っており、それが完了次第、機能解析に着手する。
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今後の研究の推進方策 |
代償性過負荷モデルおよびカルジオトキシン投与による筋再生モデルを用いて、新規に骨格筋での発現を見出したラミニンb3・インテグリンa6b4の発現量・発現場所に関して経時的変化を検証する。ついで、発現変化がもっとも著明なタイミングにおいて、ラミニンb3の中和抗体またはインテグリンa6b4のブロックペプチドを筋中し、その効果を抑制することで筋肥大・筋再生が遅延または促進するかどうか検討を加える。また、in situ hybrydization法にてラミニンb3を発現する細胞、それに対するインテグリンa6b4を発現しラミニンの作用を受けていると考えられる細胞を同定する。これにより同定された細胞を遺伝子工学的または薬理学的に欠損させたマウスを用いて筋肥大・筋再生への影響を検討する。 細胞外マトリックスは筋肥大時や再生時以外にも劇的に変化すると考えられる。そこで、持久的運動やレジスタンス運動トレーニングで施した骨格筋や、加齢や病態(廃用性萎縮、糖尿病、カヘキシア、筋ジストロフィー、ミオパチーなど)の細胞外マトリックス成分に着目し、網羅的な発現解析を行い、骨格筋の質を向上させうる細胞外マトリックスと骨格筋の質を低下させうる細胞外マトリックスを見出し、その骨格筋細胞に対する機能を培養系を用いて検証を加える。
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備考 |
2017年度 ARVO Hot topic選出 2017年度 第121回日本眼科学会大会 学術展示優秀賞 2017年度慶應義塾大学医学部学園祭「四谷祭」にて研究成果を一般公開(2017年11月4日)
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