研究課題/領域番号 |
16H03267
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
大澤 郁朗 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (30343586)
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研究分担者 |
伊藤 雅史 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (80393114)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水素分子 / 炎症 / 加齢・老化 / ミトホルミシス / 敗血症 / 白内障 / 認知機能 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
本研究テーマは研究代表者らが提唱し、10年前にNat Med誌に発表した分子状水素の医療応用(水素分子医学)という革新的な研究の一環である。当初、分子状水素は還元作用を有する最小分子として、単純に抗酸化作用が着目された。その後、疾患モデル動物を中心にした解析から、分子状水素には顕著な抗炎症作用があることが分かってきた。超高齢化社会において、炎症の適切な制御は健全な加齢・老化にとって中心的課題である。そこで本研究の目的は、分子状水素の作用として、ミトコンドリア制御を含む抗酸化ストレスとToll様受容体シグナルに作用する抗炎症の両経路が存在しクロストークしていること、両経路上流に分子状水素の標的分子となる特定分子が存在することを明らかにし、この分子機構によって炎症を主とする多くの疾患を分子状水素が抑制することを動物の疾患モデルで示し、さらにヒトでも分子状水素に抗炎症効果があることを臨床研究で示すことにある。 今年度は、昨年度に引き続き、下記に示すような成果を得た。分子状水素作用機序については、1)培養細胞を用いて分子状水素投与によってミトホルミシス(ミトコンドリアを介した酸化ストレスに対する適応応答)が誘導されることを明確にし、2)動物実験でマウス敗血症モデルを用いて水素水を事前投与すると敗血症ショックが緩和され、肝臓での酸化ストレス障害に対する適応応答の誘導が観察された。さらに臨床研究では、3)分子状水素の直接的活性酸素還元作用により、白内障手術での超音波による角膜損傷を抑制できることをウサギで確かめたのち、臨床研究を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はおおむね順調に推移している。具体的には以下のような成果と新たな実験が進行中である。1)培養細胞では分子状水素投与によるミトホルミシス(ミトコンドリアを介した酸化ストレスに対する適応応答)効果の誘導を遺伝子発現の転写・翻訳レベルで明確にし、これを元にメタボロームとLC-MSを用いて水素分子による代謝変動と脂質変化を解析中である。反応は遺伝子発現レベルの変化よりも早く、ATP産生と酸化ストレス防御を中心とする代謝変動は分子状水素添加の1時間後に、多数の脂質変動は6時間後に確認された。現在、変動している脂質の同定を進めている。2)昨年度、マウス敗血症モデルに水素水を事前投与すると病状が緩和され、肝臓での酸化ストレスに対する適応応答が観察されることを報告した。今年度、適応応答の指標として抗酸化のHO-1の変動を詳細に解析したところ、水素水投与によってLPS刺激で誘導されるHO-1が高くなるのは肝実質であることが判ってきた。3)昨年度、分子状水素の活性酸素還元作用により、白内障手術での超音波による角膜損傷を抑制できることをウサギで確かめ、臨床研究を進展中である。水素水の投与については、APOE4を保持する高齢者において、1年間の飲用でMCIの低下が有意に抑制されることを報告した。4)また、代表者らは以前にモデル動物を用いた研究から、水素水の飲用には動脈硬化抑制効果があることを報告している。そこで、アテローム形成を促進するとされる老化細胞の出現に対する分子状水素の効果検証を開始した。5)一方、科学的データが皆無な“水素風呂”についてアトピーのマウスモデルで検証を進めたところ、分子状水素を含む風呂には抗アトピー効果は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
国内外にある多数の研究機関で分子状水素の応用医学研究が進められているが、作用機序につながる基礎生物学的研究はわずかである。その中で、昨年度、分子状水素は適度な還元力とホルミシス効果という別々の作用機序を持ち、これが多様な分子状水素の疾患抑制効果につながっているという新しいモデルを提唱することができた。補助健康食品に含まれる多くの成分について、その作用機序はほとんど科学的な解明がなされていない。こうした中で、作用機序に関する研究の推進が分子状水素のさらなる応用に必須である。さらに分子状水素が直接作用する分子として脂質に着目し、物質の同定と反応機構の解明を進めている。水素水が動物モデルと臨床研究の両方で加齢による認知機能障害を抑制することを示すことができたので、今後、特に脳と血管の加齢変化に着目し、水素分子の抗加齢効果を基礎と臨床の両面で解明していく。
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