研究課題/領域番号 |
16H03274
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
川井 敬二 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (90284744)
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研究分担者 |
岡本 則子 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (00452912)
上野 佳奈子 明治大学, 理工学部, 専任教授 (10313107)
富来 礼次 大分大学, 工学部, 准教授 (20420648)
冨田 隆太 日本大学, 理工学部, 准教授 (40339255)
野口 紗生 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (60634277)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 建築環境・設備 / 音環境 / 保育施設 / 室内音響計画 / 吸音 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究計画として挙げた以下の3項目について項目毎に実績を述べる。 ①音環境指針構築に向けた議論: 共同研究者で定期的に会合をもち各種検討を行った。具体的には、吸音材に求められる耐火性に関して専門家を招いた勉強会、新設時に住民の要望を受けて防音壁を設置した保育所の視察などである。また日本騒音制御工学会の技術講習会を共同研究者らにより担当してシンポジウム的な場として開催した機会に、自治体の取り組み、保育施設側の騒音防止の対応、保育の方法論からの音環境づくりなど、多方面の専門家を招いて議論を行った。研究代表者は2回の国際会議出席(いずれも招待講演)を通して、国際的な動向の情報収集を行った。 ②音環境面の向上の方法論に関する研究活動:備品として音圧-粒子速度プローブを導入し、保育室の各部位の吸音性能を計測可能なシステムを構築し、29年度に予定する実測態勢を整えた。また、協力関係にある園において吸音材の仮設法を工夫し、保育の現場で簡易に良好な音響条件を体験できる手法を検討・実践した。同時に保育者にも働きかけて、保育の方法論の面からの音環境向上の可能性を探った。 ③よりよい音環境に向けた知見の整備:上記の吸音材の仮設に伴い、残響低減による室内音環境や保育士と園児の行動の変化を実測・観察した。またこれまで確認されていない幼児の聞き取り能力について、幼児でも参加できる実験を計画・実施し、保育士と幼児の正答率の有意差などを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、H28年度の計画は、①音環境指針構築に向けた議論、②現場への普及に向けた音環境向上のための方法論の検討、③よりよい音環境に向けた知見の整備という3項目から成る。①に関しては科研費を活用して勉強会や視察、会合での議論を豊富に行うことができた。また、日本騒音制御工学会でのシンポジウム的企画を通して、多様な観点とそれぞれからの音環境向上の可能性を検討することができた。この企画は新聞2社により報道され、新たな関心を得ることとなった。 ②に関しては保育現場での残響低減の効果を、吸音材の仮設実験を通して保育士など現場関係者に体験してもらい、その機会に保育の方法論からの音環境向上の可能性を現場で考えてもらう、といった普及に向けた取り組みを進めることができた。別の園では幼児教育の専門家である連携研究者が参画した吸音材仮設実験を開始し、良好な音環境に関する保育側のメリットについて検討を始めた。また、現場での吸音率測定システムを整備することができた。③に関して、幼児の聞き取り能力を検証する実験を先駆的に実施し、3歳児の単語聞き取りの正答率が4歳・5歳児よりも低いこと、全体に幼児は保育士よりも聞き取れていないことを明示することができた。 以上により、本研究課題である、保育空間の音環境の向上とその現場への普及に向けて、少なからぬ成果が得られたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は①音環境指針構築に向けた議論、②現場への普及に向けた音環境向上のための方法論の検討、③よりよい音環境に向けた知見の整備という3項目について、①はまとめの段階までの検討を、②と③は各共同研究者による継続的活動を予定している。 具体的に、①については日本建築学会による音環境設計規準の改訂(保育施設等の規準の追加を含む)がH30年度中と決まり、それに向けた具体的な数値目標や設計指針を本年度中にまとめる。このために、音環境の保全に関する法令・規格が整備されているドイツの保育施設の視察を夏期に計画しており、それを通してわが国の指針構築のあり方を明確化する予定である。②について、保育室には着替えやふとんなど吸音性を有する素材・部材があり、現場で各部位の吸音性能を実測し、音響設計の基礎的情報を整備する予定である。そうした情報を用いて、音響設計の効果についてシミュレーション・可視化を行い、効果の把握とともに現場関係者に提示できるようにする。③については、床衝撃音や床振動の影響の検証、保育施設内の音源のパワーの実測など、有用な情報を実験・調査により得ていく予定である。
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