研究課題/領域番号 |
16H03277
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
南 篤志 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40507191)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天然物 / 生合成 / 酵素 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、未開拓の研究領域に位置づけられるセスタテルペン(炭素数25のテルペン)生合成マシナリーに焦点をあて、イソプレノイド生合成における中心的課題の一つであるテルペン環化酵素によるカスケード型環化反応の解明に取り組む。具体的には、①セスタテルペン環化酵素発現ライブラリーの構築を基盤とした酵素機能の系統的な解析、②同定した環化酵素の反応機構解析・立体構造解析、③酵素関与が必要不可欠なステップの特定を通して、提唱した仮説の妥当性を評価する。加えて、特徴的なアミノ酸配列をもつセスキテルペン(炭素数15のテルペン)環化酵素をモデルとして、仮説の一般性を検証する予定である。本年度は、①-③について検証した。 昨年度に構築した形質転換体が生産した4種の新規セスタテルペンを構造決定し、それぞれBm1、Bm2、Bm3、Pb1と命名した。その化学構造は、我々が以前に単離したセスタフィシェロールの推定環化中間体と類似していたことから、Clade AのBFTSが類似の環化経路を経て一連の環状化合物を構築していることが明らかになった。推定した環化機構の妥当性については、DFT計算による環化機構解析と部位特異的な変異導入実験からも支持された。また、DFT計算では環化体へと至る多くのステップが自発的に進行し得ることが示唆されたことから、酵素は環化反応のクエンチングを厳密に制御しているのではないかと予想された。そこで、更なる変異導入実験によってクエンチングに関わるアミノ酸残基の特定も試みたが、現在までのところ、反応途中でクエンチされたような環化体は得られていない。さらに、仮説の一般性を検証するため、上記環化酵素とは異なるクレードに分類される新規酵素の機能解析も行い、新たな環化体の取得にも成功した。現在、その構造解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、アミノ酸配列を精査した10種類以上の環化酵素遺伝子の機能解析を行い、6種のセスタテルペン環化酵素が環化体を与えることを明らかにしていた。本年度は、①クレードAに分類される環化酵素が生産した4種のセスタテルペンの化学構造の決定、②DFT計算による環化機構の推定を行った。前者については、2次元NMRスペクトルからその平面構造と相対配置を決定した後、分解生成物をVCD測定に供することで絶対立体化学を決定した。また、一部の環化体については、修飾酵素遺伝子の追加導入により天然物へと誘導することでその絶対立体化学を決定した。後者は、クレードAに分類される環化酵素の中でも最も複雑な環化体であるセスタフィシェロールをモデルとしてその環化機構を計算化学的に検証した(共同研究)。これらの結果から、クレードAに分類される環化酵素が類似した環化反応を触媒することを明らかにし、また、酵素が積極的に関与するステップが反応のクエンチングにあることを推定した。現在までのところクエンチングに関わるアミノ酸残基を特定するには至っていないが、これまでに得られた実験結果は提唱した仮説を裏付ける結果であると考えている。これらの研究成果については、Organic Letters、Scientific Reports、The Journal of Organic Chemistry誌で発表した。上記環化酵素とは異なるクレードに分類される環化酵素の解析も鋭意進めている。以上のことから、本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
提唱した環化仮説を実証する上で必要不可欠である「セスタテルペン環化酵素の系統的な解析」については、これまでの検討から代謝産物の生産を確認できているセスタテルペン環化酵素の機能解析に注力する。昨年度の経験を踏まえ、修飾酵素遺伝子の追加導入による天然物への誘導や分解生成物のVCD測定などにより、環化体の絶対立体化学を決定する予定である。加えて、酵素関与が必須なステップの特定を目指し、計算化学的に推定された経路の妥当性を実験的に検証する。具体的には、①推定されたカチオン性中間体を与える環化酵素の同定と機能解析済みの環化酵素とのアミノ酸配列の比較、②環化体の化学的処理による環化機構の実験的な検証などを行う予定である。また、セスキテルペン環化酵素の機能解析も開始して予備的な知見を得たい。以上の実験により、イソプレノイド生合成における中心的課題の一つであるテルペン環化酵素によるカスケード型環化反応の解明を目指す。
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