研究課題
カリビアンシガトキシンはカリブ海で起こるシガテラ食中毒の原因毒であり、これまで知られる太平洋型シガトキシン類と比べて、最大の分子量と最も複雑な化学構造を有する。近年、カリビアンシガトキシンによる食中毒が世界的に拡大しつつあり、その予防対策は急務の課題となっている。カリビアンシガトキシンは天然から極微量しか得られないため、毒判定のための純粋な標準サンプルの供給、さらに詳細な生物化学的研究や微量検出法の開発のために、化学合成による物質供給が世界的に強く望まれている。本研究では、独自の合成戦略を基盤としたカリビアンシガトキシンの効率的な全合成ルートの確立、およびカリビアンシガトキシンを特異的に認識する抗体作製と高感度微量検出法への応用を目的とし、世界規模で大きな脅威となりつつあるシガテラ中毒の撲滅に貢献することを目指す。カリビアンシガトキシンのM環は、7員環エーテル上に1,3-ジアキシアルの関係にある核間ジメチル基を持つために歪みの大きい構造となっており、その構築には既存のエーテル環構築法を用いた合成法が適用できず、カリビアンシガトキシン全合成における最難関の課題の一つである。2-デオキシ-D-リボースを出発物質として、7員環ラクトン由来のエノールホスフェートとトリブチルスタンニルメタノールとのStille反応によるヒドロキシメチル基の導入、[3,3]-シグマトロピー転位を用いたα-ヒドロキシexo-エノールエーテルの構築を鍵工程としてLM環部の合成を達成した。さらに、これまでに開発した鉄ヒドリド触媒によるヒドロシランを用いたアルケンの還元的カップリング反応を適用することにより、高官能基化されたLMN環フラグメントの立体選択的合成に成功した。
3: やや遅れている
カリビアンシガトキシンのLM環部の合成における当初予定していた合成経路の問題点を克服するための再検討が必要となった。また、昨年度開発した鉄ヒドリド触媒によるヒドロシランを用いたアルケンの還元的クロスカップリング反応によるLMN環合成の検討に予想以上の時間を要した。
今年度確立した合成手法を基にして、LMN環部合成ルートの最適化を行う。さらに、当初計画通り、HI環部フラグメントの合成と鈴木-宮浦反応によるフラグメント連結を行い、カリビアンシガトキシンの右半分に相当するHIJKLMN環部フラグメントの合成を完成させ、抗体作製に着手する。さらに、カリビアン全合成に向けて検討を進める。
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