研究課題
プレニル化ポリフェノールは、生理活性物質として主に薬学、特に生薬学・天然物有機化学の領域、加えて農学領域でも盛んに研究が行われてきた。これまでに化合物として1,000種ほどが同定されているるが、その多くが薬用植物の活性本体として特定されてきた経緯がある。強調すべきは、プレニル側鎖が無くなった母核化合物では、生理活性が大きく減弱することで、プレニル基転移酵素(PT)の存在意義がここにある。筆者らは、2008年に最初にフラボノイドをプレニル化する酵素遺伝子を同定して以来、次々と植物二次代謝系PTをクローニングしてきており、数多くの論文として発表してきた。一方、植物のPTがなぜ高い基質特異性、生産物特異性を示すのか、その特性を担うドメインがどこなのか、さらにどのアミノ酸が触媒機能を担っているのかは依然不明のままである。本研究では、芳香族基質PTのアミノ酸配列から、特異的な基質やプレニル化部位の特異性を予測することのできる分子情報基盤を確立することを目指している。そのため、気質や生産物など生化学的な特異性が異なる様々な酵素の遺伝子を、様々な植物種から多数取得して揃え、結晶化に向けたスクリーニングや、キメラ酵素の作成を介して酵素科学的な特性を担うドメインの特定を目指している。それをさらにブイテクい的突然変異導入まで持っていくことを計画してきた。今年度は、研究進展の都合から、当初の予定の2年目と3年目を入れ替え、先に様々な特徴を有する29種類のPTのGFP融合タンパク質を酵母において発現させるべく Gap Repair Cloningを行い、29種全てを酵母に発現させてGFP蛍光の強弱と、ゲル濾過による分子の均一性を評価するスクリーニングに注力した。
3: やや遅れている
本研究では、酵素機能だけではなく、細胞内の基質供給の実態まで探ろうと前者を「横糸」、後者を「縦糸」と位置付けて両面から酵素の実態全体を理解しようとしていた。前者に関しては、ほぼ計画通りに進んでいるとみなしても良いかと思われるが、細胞内の基質供給の実態、すなわちフラボノイドなどのプレニルアクセプタ基質が細胞質で作られるのに対し、プレニルドナー基質であるプレニルジリン酸はMEP経路に由来するためにプラスチドのストロマに局在しており、この両者がどのようにしてPT分子上で出会うことができるのか、といった謎に挑んでいた。しかしながら、プレニル化体を大量に蓄積するホップの雌花は入手時期が限られる上に樹脂物質の混入により生化学実験には不適であることや、材料の入手しやすい柑橘類の外果皮からはインタクトなプラスチドを単離することが技術的に不可能であることが判明し、実験遂行に行き詰まった。また、プラスチドが単離可能なタバコやカイワレダイコンではプレニルかポリフェノールを合成しないこともあって、代替化合物のプラスチド輸送を測定したこともあったが、思うような輸送活性が得られず、この部分に関しては、現在打開策を見いだせていないというのが現状である。そのため、一部の実験が計画通りに進んでいないことからやや遅れているという判断にした。
本年度の研究実施計画は以下の通りとする。1)プレニル側鎖を酸素原子に転移する O-PT と、同側鎖を炭素原子に転移する C-PT 間のドメイン・シャッフリングを行う。本実験では、アミノ酸配列の相同性がなるべく相互に高く、基質はなるべく類似している組み合わせが望ましい。そのため、最近グレープフルーツからクローニングしたCpPTのcDNA 6種のうち2つを選んで、実施計画書に記載のキメラ遺伝子を作成する。2)もう一組のドメインシャッフリングとして、リニア型、あるいはアンギュラ型フラノクマリンの生成を支配する、生合成前駆体のウンベリフェロンをアクセプタ基質とし、その6位あるいは8位特異的にプレニル基を転移する酵素2種類を使って、プレニル化部位特異性を決定するドメインの絞り込みを行う。こちらの実験には、同じ植物から単離された2つの生産物特異性が異なるプレニル化酵素遺伝子PsPT1およびPsPT2を用い、キメラ酵素作成の元遺伝子とする。3)上記の一連のキメラ酵素をバイナリーベクターにサブクローングし、Nicotiana benthamiana のアグロインフィルトレーション法にて一過的に発現させ、葉のミクロソーム画分を用いて酵素活性を評価し、それぞれ生産物特異性を決めるドメインの絞り込みを行う。4)プラスチド局在の輸送体の探索は、実用植物では困難が多いことから、シロイヌナズナのプラスチド局在輸送体のリストの中から絞り込みを行い、有機化合物の輸送体を特定することを試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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