研究課題/領域番号 |
16H03283
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松井 健二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90199729)
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研究分担者 |
肥塚 崇男 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (30565106)
河内 孝之 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (40202056)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゼニゴケ / 油体細胞 / 二次代謝産物 / 化学防衛 |
研究実績の概要 |
平成28年度は1細胞トランスクリプトーム解析実施のための基盤技術の確立を進めた。ゼニゴケ葉状体をバーミキュライト上で栽培することで油体細胞を特異的に分化成長させることを見いだし、条件最適化を実施した。その結果、寒天培地状で生育させた葉状体では向軸側表皮近くの葉緑体リッチな細胞集団に油体細胞が散見されるが油体そのものは細胞容積の10%程度の未成熟な状態であった。一方、バーミキュライト栽培では油体が細胞容積の半分以上を占めるに至り、また、葉緑体がほとんど見られない海綿状組織で油体細胞が多く見られた。油体中のテルペノイドはテルペン合成酵素によって生成される。ゼニゴケゲノムには十数個のテルペン合成酵素が存在する。油体細胞特異的テルペン合成酵素を見いだすため定量的RT-PCRによって寒天培地からバーミキュライトに移植した後に発現が誘導されるテルペン合成酵素を検索し、テルペン合成酵素3, 5, 7遺伝子が特異的に発現誘導されることを明らかにした。 一方、1細胞トランスクリプトーム解析においてはゼニゴケ葉状体切片内の油体細胞内容物をキャピラリーで吸い出す実験系を構築し、解析を進めたが、この実験系ではどうしても油体細胞以外の細胞の内容物がコンタミし、特異的な1細胞トランスクリプトーム解析には不向きであることが明らかとなった。そこで、細胞壁分解酵素や物理的細断法でのプロトプラスト採取方法の確立を進め、RNA単離に成功した。 一方、変異体スクリーニングについては、致死率数十パーセントでアルビノ変異体出現率が1割程度のEMSを用いた化学変異導入系を確立できた。これまでに数千系統をスクリーニングし、候補株を1つ得たが、残念ながら配偶体形成不全形質と判明し、その後の検討が進められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた1細胞トランスクリプトームは28年度内に終了することができなかったが、その基盤技術となるプロトプラストの単離に成功したため、比較的早い時期に1細胞トランスクリプトームデータを得ることができる。また、油体細胞誘導条件の最適化が完了し、油体細胞の消長と二次代謝産物量が相関することを確定できた。その上で、本誘導条件で誘導される遺伝子を探索し、テルペン合成酵素3, 5, 7遺伝子が特異的に誘導されることを見いだした。これらテルペン合成酵素は油体細胞特異的二次代謝に寄与していると考えられる。また同時にこれら遺伝子を油体細胞のマーカーとして利用可能となり、今後よりスムーズに油体細胞単離が可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
今回油体細胞特異的に発現しているとして得られたテルペン酵素遺伝子についてレポーター遺伝子を用いてその特異性を確認する。レポーター遺伝子としてmCitrine、TdTomatoを用いる。 一方、1細胞トランスクリプトームについては早急にプロトプラストの大量調製技術を確立し、RNA単離、cDNA化を進めて次世代シークエンサーに供する。 また、化学変異を施した変異体系統でのスクリーニングについてはこれまで数千系統のスクリーニングを終え、1次スクリーニング、2次スクリーニングまで進めることができたが、3次スクリーニング(2次スクリーニングを終えた株の次世代株での確認)で残るものがなく、スクリーニング手法そのものの見直しが必要と考えられる。そこで、上記レポーター遺伝子を用いたスクリーニング、および代謝物をマーカーとするスクリーニング系を開発し、油体形成に関わる変異体を作出する。
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