研究課題
平成28年度ではまず、「金属触媒キャリア」となる糖鎖クラスター(糖鎖付加アルブミン)を活用した遷移金属触媒の疾患組織への輸送効率と反応効率を評価した。これまでに、末端にシアル酸を持つ糖鎖付加アルブミンは肝臓に、末端にガラクトースを持つ糖鎖クラスターは腸管に移行することが分かっていた。そこでまず、末端にシアル酸を持つ糖鎖付加アルブミンに対して、アルブミンの低分子リガンドであるクマリン分子を介して金(III)触媒を結合させ、「金属触媒キャリア」を合成した。これをヌードマウスに静脈注射したところ、30分以内に金触媒を肝臓の表面に植え付けることができた。短時間で遷移金属触媒を体内の特定の部位に移行させることが本法の最も重要な点である。続いて、目的の有機反応の基質であるプロパルギルエステルに蛍光基を付けた分子を静脈注射した。この分子は血液中を通って体全体を巡るが、前もって植え付けられていた金触媒のある肝臓に到達すると、その肝臓表面にあるリジン残基などのアミノ基との間で、アミド化反応を起こしたことが蛍光イメージングにより判明した。金属触媒を埋め込んだ糖鎖付加アルブミンの疎水性部分で効率的に反応が進行したと考えられた。イメージング後、肝臓を摘出し、切片を蛍光顕微鏡で解析したところ、「金属触媒キャリア」に使用した末端シアル酸が相互作用する肝臓の標的受容体付近で、選択的にアミド化反応が進行していることが判明した。さらに、末端にガラクトースを持つ糖鎖付加アルブミンに対して金触媒を結合させ、これを金の腸管への「金属触媒キャリア」として、同様の実験を実施した。その結果、今度は腸管の表面でアミド化反応を実現した。以上のように、糖鎖付加アルブミンを効率的な「金属触媒キャリア」、そして「疎水性反応場」として活用することで、生きているマウス内の特定の臓器で選択的に遷移金属触媒反応を実現した。
1: 当初の計画以上に進展している
糖鎖付加アルブミンを効率的な「金属触媒キャリア」、そして「疎水性反応場」として活用することで、生きているマウス内の特定の臓器で選択的に遷移金属触媒反応を実現した。世界で初めての例であり、論文やプレスリリースで注目を集めた。また、今後の生体内合成化学治療の基礎となる成果を得た。以上のことから、研究課題は当初の計画以上に進展していると評価する。
平成28年度に実現した生体内での遷移金属触媒反応をもとに、平成29年度では、生理活性ペプチドを生体内で触媒的に合成することにより、2つの生体内合成化学治療を検討する。(1)肝硬変を治療する「生体内合成化学治療」報告者はこれまでに、グルコサミン構造を末端に持つN-型糖鎖を利用することにより、糖鎖付加アルブミンを選択的に肝星細胞に運搬することに成功している。そこで、まず金触媒活性を持つ人工金属触媒酵素を肝星細胞に対して選択的に組み込む。次いで、ペプチドフラグメントを静脈注射することでアミド結合形成反応によるペプチド合成を実施する。本課題では主に分子内反応による環状ペプチドの合成を試みる。特に星細胞の細胞接着阻害を起こすペプチドを生体内合成して、肝繊維化を効果的に防ぐ。さらに細胞選択的にアポトーシスへと導くペプチドについても合成を検討する。本課題では、標的の星細胞で初めて活性な高親和性ペプチドが生成するため、従来問題となっていた正常細胞への影響(副作用)を回避することを目指す。(2)がんを治療する「生体内合成化学治療」肝硬変治療と同様にして、がん細胞への「生体内移行シグナル」である糖鎖を活用して、金やパラジウム触媒をがん細胞へと組み込む。次いで、プロパルギル基を含む環状ペプチド前駆体を静注する。ここでは特に、活性・毒性が非常に高い、天然の抗癌ペプチド誘導体に焦点を当て、がん組織周辺で合成し治療を行う。これらの戦略により、従来問題となっていた副作用を低減し、がんを選択的に治療する。
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すべて 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 12件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 17件、 謝辞記載あり 16件) 学会発表 (67件) (うち国際学会 21件、 招待講演 28件) 備考 (5件) 産業財産権 (1件)
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