研究課題
アルツハイマー病をはじめとするアミロイド病は、アミロイドタンパク質の凝集が引き金となり発症するため、その凝集阻害物質は病気の予防や治療に有用である。最近我々は、量子ドットによるアミロイドβ(Aβ)凝集のリアルタイムイメージング法を応用したAβ凝集阻害物質の微量ハイスループットスクリーニング法(MSHTS法)を開発した。本研究ではMSHTS法を活用し、Aβ凝集阻害物質の探索、および作用機序を解明に取り組んだ。また、MSHTS法をAβ以外のアミロイドに拡張するための検討を行った。我々は、以前シソ科ハーブ系香辛料の一種であるサマーサボリーの活性本体がロスマリン酸であることを報告した。そこで、ロスマリン酸のAβ凝集阻害機構を解明するために、様々なロスマリン酸誘導体を合成し、MSHTS法およびThT法を指標として構造活性相関の解析を行った。これらの成果については学会で発表し、現在国際専門誌に論文を投稿中である。また、これまで高いAβ凝集阻害活性が明らかになっている青ジソの活性本体の探索にも取り組んだ。その結果、複数の活性本体が凝集阻害活性に寄与している可能性が示唆された。今後も活性本体の探索に取り組み、青ジソによるAβ凝集阻害機構を明らかにする予定である。新たなAβ凝集阻害物質の発見を目指し、北海道産植物抽出物ライブラリー(504種類の抽出物)の活性をMSHTS法により評価した。その結果、植物の分類と活性に相関が見られることが明らかになった。この成果については、現在論文発表の準備を進めているところである。Aβ以外のアミロイド凝集についても量子ドットを用いた可視化が可能になりつつある。これまで幾つかのペプチド凝集の可視化に成功しており、タウについては凝集過程の3Dタイムラプス観察や、ロスマリン酸による凝集阻害の様子の直接観察にも成功するなど、先行して研究が進みつつある。
2: おおむね順調に進展している
初年度に計画していたロスマリン酸のAβ凝集阻害機構の解明については、予定通り誘導体を用いた構造活性相関解析が終了し、現在論文投稿中である。また、この研究を進める際に、低濃度のロスマリン酸がAβ凝集体の形態に影響を与えることが新たに明らかになり、現在その解析を進めているところである。青ジソの活性本体の単離までは終了できなかったが、複数の活性物質が協同的に作用している可能性が明らかになるなど、当初の予定とは異なる状況となったため、それをふまえて次年度以降も研究を続ける予定である。新たな活性本体の発見を目指し、約500種類の植物抽出物を含むライブラリー、約100種の低分子有機化合物を含むライブラリーの解析を終え、学会発表や論文発表の準備を進めている。また、2016年度文科省共通政策課題(基盤的設備等整備分)が年度途中に採択され、自動分注システム、共焦点レーザーシステム、GC-MSを新たに導入することができた。そこで、これまで手動で行ってきた分注作業を自動化することで、MSHTS法の高速化、高精度化に向けた手法の改良を新たに開始した。また、共焦点システムにより凝集体の三次元画像の観察が可能になったため、凝集阻害物質による阻害だけでなく、阻害物質が凝集体の形状に与える影響も解析出来るようになり、新たな情報が得られつつある。このように、MSHTS法については、当初の予定よりシステムの高度化が進んでおり、今後の研究の加速が期待される。量子ドットを用いたAβ以外のペプチドの凝集過程の可視化についても進みつつ有り、Tauについては新たなシステムを用いて、計画以上の研究の進展が進んでいる。一方で、Aβオリゴマー形成阻害物質の新規スクリーニング法の開発については、計画より若干遅れている。全体としては計画以上に進んでいる部分が多いが、一部遅れているところもあるため、(2)と自己評価した。
おおよそ、予定通り研究は進みつつあるため、今後も当初の計画通り研究を進めていく予定である。一方で、MSHTS法の自動化が可能になったため、この手法を活用した企業等との共同研究を進めていく予定である。現在、すでに地方自治体を含む幾つかの企業等と共同研究が進みつつあり、今後もそれを拡大していく方針で研究を進めていく。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち謝辞記載あり 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 9件)
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