研究課題/領域番号 |
16H03293
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
緒方 一博 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (90260330)
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研究分担者 |
浜田 恵輔 横浜市立大学, 医学部, 助教 (00344052)
椎名 政昭 横浜市立大学, 医学部, 助教 (30347299)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 転写因子 / 転写制御 / がん / 創薬 |
研究実績の概要 |
がんの原因分子を標的とする薬剤を用いたがん分子標的治療は、白血病や肺がん等の様々ながんに対して延命効果を示している。しかしその標的分子としては、がんの原因の一部であるリン酸化酵素が主で、最大の原因分子である転写因子の多くはいまだがん分子標的の対象となっていない。そこで本研究では、転写因子を標的分子とした治療法の開発を目指した。転写因子を標的とした分子標的治療は、リン酸化酵素との複合変異のある症例にもリン酸化酵素阻害薬と併用することで治療効果を飛躍的に高めることが期待できる。具体的には、急性白血病において、高頻度に遺伝子変異が認められ、発病・進展に関与する転写因子Runx1/CBFβを対象とし、低分子阻害薬の開発を試みた。 本研究では、まず表面プラズモン共鳴法やゲルシフトアッセイを用いて、複数種の低分子化合物がRunx1のDNA結合活性阻害を持つことを示した。さらに、Microscale thermophoresis (MST)を用いて、Runx1と低分子化合物との結合親和性の測定を行い、解離定数を算出した。一方、細胞レベルでの低分子化合物の活性評価として、Jurkat(T lymphoblast-like)細胞やRunx1に変異を有する白血病細胞であるKasumi細胞を用いて、培養細胞におけるRunx1の転写活性化能に与える低分子化合物の影響を解析した。さらに、低分子化合物によるRunx1のDNA結合阻害活性のメカニズムを明らかにするため、結晶系の異なるRunx1単体の結晶構造を複数明らかにし、Runx1と低分子化合物との複合体の結晶化を試みた。今後、低分子化合物の結晶への浸漬条件を検討する等して、Runx1と低分子化合物の相互作用を分子構造レベルで明らかにし、共同研究を行っているインタープロテイン(株)の協力のもと、化合物の分子構造をさらに最適化することを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに以下の研究を行った。 1)生化学的手法を用いた薬効の評価:表面プラズモン共鳴法に用いて、Runx1-DNAおよびRunx1-CBFβ結合阻害薬によるDNA結合阻害活性を測定した。現有するビアコア2000を用いて、センサーチップCM4 にRunx1の結合配列を含む顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のエンハンサーDNAを結合させ、Runx1を含む水溶液を添加することでDNAへの結合をセンサーグラムとしてリアルタイムにモニターした。その結果、複数種の低分子化合物にRunx1のDNA結合活性阻害およびCBFβ結合活性阻害効果があることがわかった。2)Runx1と低分子化合物との結合親和性の測定:Microscale thermophoresis (MST)を用いて、Runx1と低分子化 合物との結合親和性を測定した。その結果、複数種の低分子化合物がRunx1と1:1のモル比で結合することが示され、解離定数を算出した。(今後、必要に応じて再現性の確認実験を行う)3)細胞レベルでの低分子化合物の活性評価:Jurkat (human T lymphoblast-like) cell lineを用いて、培養細胞におけるRunx1の転写活性化能に与える低分子化合物の影響を解析した。進捗状況がやや遅れている理由:昨年度、Runx1を標的とする化合物の活性評価の結果、当初の予想に反し、Runx1を標的とする化合物が他の転写因子Ets1にも作用することが明らかとなった。この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、Ets1に対する化合物の活性評価を追加で実施する必要が生じた。さらに、候補低分子化合物とRunx1との共結晶化実験において、結晶化の再現性が乏しいなど、結晶化条件のスクリーニングに時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
候補低分子化合物と類似の分子構造を持つ化合物を入手し、平成28年度までに確立した手法を用いて化合物の活性を評価する。得られた低分子化合物の構造をさらに最適化するために、Runx1と低分子化合物との相互作用について分子構造レベルで明らかにし、インタープロテイン(株)の協力にもとに化合物の分子構造をさらに最適化する。 1)Runx1と候補化合物との結合親和性測定:Microscale thermophoresis (MST)を用いてRunx1と低分子化合物との結合親和性を測定する。必要に応じて再現性の確認実験を行う。2)転写活性化能の阻害活性の評価:ゲノム中にレポーター遺伝子を組み込んだJarkat細胞株(平成28年度より作製中)を用いて、薬剤がRunx1の転写活性に与える効果を評価する。3)抗腫瘍活性の評価:Kasmi-1を始めとした白血病細胞株を候補化合物の存在下で培養し、MTSアッセイなどによって抗腫瘍活性を評価する。4)候補低分子化合物とRunx1との共結晶化実験:DNA非結合状態での野生型Runx1のDNA結合ドメイン(アミノ酸60-174)と、薬剤との共結晶化を試みる。平成28年度までに、野生型Runx1単体での結晶化に成功しているので、薬剤を含む溶液への浸漬を並行して試みる。5)低分子化合物の構造の最適化:インタープロテイン(株)の協力のもと、共結晶化によって得られたRunx1-低分子化合物複合体の構造を基に、3D分子模型を作製し、さらに結合親和性や特異性が高まるように化合物の構造を最適化する。
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