がんの原因分子を標的とする薬剤を用いたがん分子標的治療は、白血病や肺がん等の様々ながんに対して延命効果を示している。しかしその標的分子としては、がんの原因の一部であるリン酸化酵素が主で、最大の原因分子である転写因子の多くはいまだがん分子標的の対象となっていない。そこで本研究では、転写因子を標的分子とした治療法の開発を目指した。転写因子を標的とした分子標的治療は、リン酸化酵素との複合変異のある症例にもリン酸化酵素阻害薬と併用することで治療効果を飛躍的に高めることが期待できる。具体的には、急性白血病において、高頻度に遺伝子変異が認められ、発病・進展に関与する転写因子Runx1/CBFβを対象とし、低分子阻害薬の開発を試みた。 本研究では、まず表面プラズモン共鳴法やゲルシフトアッセイを用いて、複数種の低分子化合物がRunx1のDNA結合活性阻害を持つことを示した。さらに、Microscale thermophoresis (MST)を用いて、Runx1と低分子化合物との結合親和性の測定を行い、解離定数を算出した。一方、細胞レベルでの低分子化合物の活性評価として、Jurkat(T lymphoblast-like)細胞やRunx1に変異を有する白血病細胞であるKasumi細胞を用いて、培養細胞におけるRunx1の転写活性化能に与える低分子化合物の影響を解析した。さらに、低分子化合物によるRunx1のDNA結合阻害活性のメカニズムを明らかにするため、結晶系の異なるRunx1単体の結晶構造を複数明らかにし、Runx1と低分子化合物との複合体の結晶化を試みた。今後、低分子化合物の結晶への浸漬条件を検討する等して、Runx1と低分子化合物の相互作用を分子構造レベルで明らかにし、共同研究を行っているインタープロテイン(株)の協力のもと、化合物の分子構造をさらに最適化することを計画している。
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