研究実績の概要 |
大脳基底核には運動発現のアクセルとなる直接路とブレーキとなる間接路の二つの拮抗する経路が存在し、これらのバランスがどちらかに偏ることによって、パーキンソン病の無動やハンチントン舞踏病の過動という病態が生じる。これが現在最も広く受け入れられている従来の大脳基底核スキームである。この従来の大脳基底核スキームでは、パーキンソン病は間接路優位へ偏るという根拠から、無動という病態を説明することはできる。しかしパーキンソン病に不随意運動の一つである「振戦」が生じる理由を同時に説明することはできない。応募者らはウイルスベクタを用いた単一神経トレース等で、大脳基底核の形態学解析を行ってきた (Unzai et al., 2017; Fujiyama et al., in press; Koshimizu et al., 2013; Fujiyam et al. 2011; Matsuda et al. 2009)。その結果、線条体投射ニューロンのうち、基底核出力部(淡蒼球内節/黒質)に投射するニューロン(直接路ニューロン)は淡蒼球外節に側枝を出すことを明らかにした (Fujiyama et al., 2011)。また、淡蒼球外節ニューロンには従来知られていた下降性のニューロン (Prototypic Neuron)のみならず、線条体のみに投射するニューロン (Arkypallidal Neuron)が存在することも明らかにした(Fujiyama et al., 2016)。つまり大脳基底核には、従来の直接路・間接路に加えて、線条体と淡蒼球外節外殻部との反回性回路が存在する可能性を示唆した。今後はこの独自に発見した回路を形態学と電気生理学を融合させた解析手法で証明することを目指す。この解析は、様々な病態を矛盾なく説明しうる新たな大脳基底核スキームの確立に繋がると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの申請者らの研究の結果、線条体投射ニューロンのうち、基底核出力部(淡蒼球内節/黒質)に投射するニューロン(直接路ニューロン)は淡蒼球外節に側枝を出すこと (Fujiyama et al., 2011)、また、淡蒼球外節ニューロンには従来知られていた下降性のニューロン (Prototypic Neuron)のみならず、線条体のみに投射するニューロン (Arkypallidal Neuron)が存在することが明らかになった(Fujiyama et al., 2016)。しかし、この直接路ニューロンの側枝が、淡蒼球外節ニューロンのPrototypic Neuronに投射するのか、Arkypallidal Neuronに投射するのかは明らかになっていない。この結果如何で、この直接路ニューロンの側枝が、下降性の大脳基底核回路に寄与するのか、反回性回路をつくるのかがかわってくる。今年度はそれを明らかにするために、直接路ニューロンの側枝に特異的に発現する神経伝達物質や受容体を利用して形態学的および電気生理学的な実験を行う。具体的には視床下核に逆行性トレーサーを注入して、Prototypic Neuronのみを同定したのち、そのニューロンが直接路ニューロンの側枝を受けうる受容体を発現しているのかを調べる。また、そのニューロンに直接路ニューロンの側枝に特異的に発現する神経伝達物質を薬理学的に作用させ、ポストシナプス側の淡蒼球外節ニューロンの反応性を電気生理学的に解析する。 この解析は、様々な病態を矛盾なく説明しうる新たな大脳基底核スキームの確立に繋がると考えられる。
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